不貞・男女問題
不貞とは、配偶者(夫または妻)のある人が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の人と性的関係を結ぶことです。
不貞は、必ずしも男女間のみとは限らず、いわゆるLGBTQ・性的マイナリティに対する理解の浸透してきた昨今では、同性同士でも不貞になり得ます。
不貞という言葉は民法上のものであり、世間では不倫という言葉がポピュラーですが、後者は必ずしも性的関係を結んだ場合に限られず、範囲が広くなります。
民法752条には、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と規定されており、その一環として、夫婦は互いに貞操義務(婚姻相手である夫または妻以外の人と性的関係を結ばない義務)を負うものと解されています。
したがって、婚姻相手である夫または妻以外の人と不貞に至った場合、この貞操義務に違反することとなり、不貞をした夫または妻は、婚姻相手である妻または夫に対し、民法709条の不法行為に基づき精神的苦痛を与えたものとして、慰謝料の支払義務を負い得ます。
また、民法770条1項1号には、夫婦の一方が離婚の訴えを提起できる場合として、「配偶者に不貞な行為があったとき」が規定されていますので、不貞は裁判離婚が認められる事由(離婚事由)にもなり得ます。
ここでは民法上の不貞について、簡潔に記します。
どのような場合が不貞に該当するか
「どのような場合が不貞に当たるのか?その範囲は?」という点については、通常は上記の通り、性的関係を結ぶ場合が不貞です。
恋愛感情があるとか、好意を示すメールやLINEを送り合っているとか、二人で食事に行ったとか、頻繁に会っているとかの場合でも、肉体関係がない場合は不貞とはいえません。
では、「一晩一緒に過ごしたが、何もしていないという場合も、不貞ではないね」と思われるかもしれませんが、例えば妙齢の男女が、ラブホテル内で、2人だけで一晩一緒に過ごしたとすると、それは性的関係を結ばない限りは不貞ではないものの、現実には性的関係を結んだ=不貞を行ったものと推認されがちであり、何もなかったと主張しても、裁判所にそう思ってもらうことは困難になってきます。
ここは事実の証明の問題も絡んでいます。
例えば、「配偶者が風俗に行き、お金を払って性的なサービスを受けた場合は不貞に当たるか?」も、問題になり得ますが、この場合、肉体的には性的関係を結んでいると思われるものの、不貞に当たるかどうかは、個別の事情にもよりますが難しいところでしょう。
配偶者に対し、性的サービスを行い、性的関係を結んだ相手(風俗嬢等)に対して、不貞の慰謝料を請求できるどうかについても、この相手は仕事として行っており、難しいと思われます。
不貞の証拠にはどのようなものがあるか
証拠は、あった方が良いことは当然として、裏付けとしての強弱は、証拠によっても異なってきます。
実際に争いになった際にあり得る証拠としては、①配偶者と不貞相手が性的関係を結んだことが分かるメールやLINE、②2人が性行為をしている写真や動画、③配偶者が不貞相手とラブホテルや一人暮らしの不貞相手宅に出入りしている写真、④配偶者や不貞相手が不貞をしたことを認めている音声・書面等、⑤ラブホテルのレシート、クレジットカードの履歴等、⑥不貞相手との間で出生した子について配偶者が認知した旨の記載のある戸籍謄本等、が挙げられます。
①②⑤は、配偶者の承諾なく勝手に携帯電話やパソコン、財布の中や郵便物等を見る行為は、プライバシーの侵害として不法行為となる可能性があるほか、IDやパスワードを入力しなければログインできないようアクセスを制限している携帯電話やパソコン等に、配偶者の承諾なく勝手にログインして盗み見ること等も、不正アクセス禁止法上の不正アクセスとして不法行為となる可能性があります。
③は、なかなか当事者が自分でうまく入手することは難しく、探偵・興信所による物が大半です。
④は、単に「本人が認めている」というだけでは、証拠が残っているわけではなく将来いつ翻されるとも限らないほか、音声・書面も、ないよりあった方が良いものの、その内容によっては万全とは限りません。
⑤は、それだけでは不貞相手までは記されていないという点が弱点です。
不貞の損害賠償額はいくらか
不貞のあった時の、損害賠償額はいくら位なのでしょうか。
これは、夫婦のそれまでの婚姻期間の長短、関係が良好であったか否か、子どもはいるのか・何歳か、不貞の回数・態様、不貞が原因で夫婦が別居や離婚をするに至ったか否か、その他の諸事情によるため、一概には言えません。
ただ、訴訟に至った場合、不貞が原因で離婚に至ったケースの慰謝料は、150~200万円位が多いのではないかと思います。
もちろん、上記の色々な要素にもよるため、幅を広くとらえれば、100~300万円位でしょうか。
夫婦が別居や離婚をせずに、不貞相手に慰謝料を請求するような場合は、50~100万円位かと思います。
これらの慰謝料については、本来は不貞をした夫婦の一方と、不貞の相手方がいわば共犯関係に立つような形なので、この二人が不真正連帯債務という形で、不貞をされた夫または妻に対して、全額の支払義務を負うこととなります。
例えば、妥当な慰謝料が150万円だとしたら、不貞をした夫または妻と、不貞相手は、それぞれが不貞をされた妻または夫に対し、150万円全額の支払義務を負い、どちらか1人あるいは2人で合計150万円が支払われれば、損害賠償請求権は消滅します。
その150万円の最終的な負担割合は不貞当事者の折半となることが多いとは思われますが、不貞関係をどちらがどう申し向け・そそのかしたか、嘘をついたり強要したりしたか等の態様等によって、差の付く場合も考えられます。
ちなみに、夫婦の婚姻関係が破綻をしていて、その後に不貞が行われた場合には、慰謝料は発生しないとされています。
例えば、①夫婦間で既に離婚の話し合いが進んでいて、離婚を前提に別居が開始されている、②既に離婚調停や離婚訴訟が行われ、双方共離婚の方向で希望している、③離婚調停や離婚訴訟等はされていないが、既に長期間の別居が続いていて、家計も別で連絡も取り合われていない等の場合は、破綻していると認定される可能性が高くなります。
慰謝料を請求された側から、「夫婦仲が悪かった」「家庭内別居だった」等の主張がされることも少なからずありますが、同居をしていて離婚調停や訴訟等もしていない場合、裏付け証拠がないと、なかなかそのような認定をしてもらうことは難しくなります。
なお、婚姻関係にないカップルの一方が、他の人と性的関係を結んだとしても、そのカップルが内縁関係にある場合等、婚姻関係にある場合と同視できるような場合を除き、それは「浮気」であり、保護されるべき婚姻関係がないため、そのような場合には不法行為の成立を認めるのは困難で、慰謝料請求は原則として認められないものと解されます。
損害賠償請求の手続については、まずは当事者間で協議を行い、まとまらなければ調停や訴訟などを検討するのが一般的です。
不貞・男女の問題についても、お気軽にご相談ください。