民事執行

 民事執行は、例えばお金を払ってもらうこと、登記を移転してもらうこと、物を引き渡してもらうこと等、一定の請求をしたい相手に対して、裁判所の判決をもらった後や、相手から抵当権等の担保権の設定を受けた後に、その判決や担保権の実行等を通じて、自己の権利を実現するための手続です。
 非常に大ざっぱに言えば、民事保全が、裁判を起こす前などにあらかじめ相手の財産等を確保しておく手続だとすると、民事執行は、裁判を起こして判決をもらった後などにその内容を強制的に執行・実現する手続といえます。
 例えば、裁判を起こして裁判所から勝訴判決をもらった場合でも、相手がその内容に沿って、自主的にお金を払ったり、登記を移転してくれたり、目的物を渡してくれたり、建物から立ち退いてくれたりすればそれで済みますが、判決が出てもなおそのように行動をしてくれない場合には、あくまで更に法的な手続に従って、これらの権利を実現しなければなりません。
 そこで、権利者は更に勝訴判決等の書類を裁判所に提出して、強制執行の申し立てを行い、義務のある相手の財産を差し押さえて競売にかけ、お金に換えてこれを分配してもらったり、相手名義の登記を移転してもらったり、相手から物を取り上げて渡してもらったり、相手を建物から立ち退かせてもらったりして、権利を実現する手続です。
 なお、財産を差し押さえるといっても、基本的には相手がどんな財産を持っているかを把握していないとできないので、その点は注意が必要です。
 つまり、裁判所が相手の隠し持っている財産を調べ上げて押さえてくれるわけではなく、これらはあくまで自分で見つけなければなりません。

 民事執行は、申し立てにより、裁判所または執行官が行います。
 民事執行の申し立てをする時は、申立人は一定の予納金を納める必要があり、これらは執行手続の経費に充てられますが、強制執行の費用で必要なもの(執行費用)は、最終的には債務者の負担となります。
 また、強制執行には、確定判決、仮執行の宣言を付した判決、確定判決と同一の効力を有する書類等、いわゆる債務名義の正本が必要であり、申立人は基本的にこれらを事前に取得している必要があります。
 この債務名義の正本に、裁判所が執行文を付したものに基づいて、強制執行は実施されます。
 したがって、申立人は裁判所に対し、債務名義の正本に執行文の付与をするよう申し立てる必要があります。
 執行処分を行う裁判所は、口頭弁論を経ないで裁判をすることができますが、必要があると認める時は、利害関係を有する人その他の参考人を審尋することもできます。
 強制執行は、債務名義等の正本等が、あらかじめまたは同時に債務者に送達された時に限り、開始することができます。
 執行官は、職務の執行の際に債務者等から抵抗を受ける時は、その抵抗を排除するために、威力を用いたり、警察官に援助を求めたりすることができます。
 執行官等は、人の住居に立ち入って職務を執行する際には、住居主やその代理人、同居の親族、使用人等一定の人がそこにいない場合には、市町村の職員、警察官その他証人として相当と認められる人を立ち会わせる必要があります。
 民事執行の手続に関する裁判に対しては、不服がある人は、執行抗告、執行異議等の不服申立てが可能です。
 また、執行文の付与の申し立てに関する処分に対しても、不服のある人は、異議申立てが可能です。
 強制執行の目的物について、所有権その他目的物の譲渡または引き渡しを妨げる権利を有する第三者は、債権者に対し、第三者異議の訴えも可能です。

 強制執行には主に、①不動産に対する強制執行、②動産に対する強制執行、③債権その他の財産権に対する強制執行、④金銭の支払を目的としない請求権についての強制執行、⑤担保権の実行としての競売等があります。
 また、民事執行法には、民事執行の実効性を高めるため、債務者の財産状況を調査する手続として、財産開示手続や第三者からの情報取得手続も規定されています。
 以下、それぞれについて記します。

不動産に対する強制執行

 不動産(登記ができない土地の定着物は除かれます)に対する強制執行(不動産執行)は、強制競売または強制管理の方法によって行われますが、強制管理の対象となるのは債務者が使用収益権を有している不動産等に限られ、強制競売の方が一般的なので、ここでは強制競売について記します。

 債権者から強制競売の申し立てを受けて、執行裁判所が強制競売の手続を開始する場合、強制競売の開始決定をし、債権者のために不動産を差し押さえる旨の宣言がなされます。
 この強制競売開始決定は、債務者に送達され、差押えの効力はこの送達時に生じます(差押えの登記が開始決定の送達前にされた時は、登記時に生じます)。
 債務者は、差押えを受けても、通常の用法に従って不動産を使用収益することは可能です。
 強制競売の開始決定がされると、裁判所書記官が直ちにその開始決定に関する差押えの登記を登記官に嘱託します。
 執行力のある債務名義の正本を有する債権者、強制競売開始決定に関する差押えの登記後に登記された仮差押債権者等は、裁判所へ配当要求をすることができます。

 執行裁判所は、債務者や不動産の占有者が不動産の価格を減少させ、または減少させるおそれがある行為(価格減少行為)をする時は、差押債権者の申し立てにより、買受人が代金を納付するまでの間、不動産の保全処分等を命ずることができます。
 具体的には、例えば①価格減少行為をする人に対し、その行為を禁止し、または一定の行為をすることを命ずる処分、②価格減少行為をする人に対し、不動産の占有を解いて執行官に引き渡すことを命ずると共に、執行官に不動産を保管させる処分等です。
 執行裁判所は、債務者以外の占有者に対して保全処分を命ずる場合、必要があると認める時は、その占有者を審尋しなければなりません。
 執行裁判所は、一定の保全処分を命ずる場合に、その決定の執行前に相手方を特定することを困難とする特別の事情がある時は、相手方を特定せずに決定を発することもできます(ただし、この決定の執行は、不動産の占有を解く際にその占有者を特定できない場合は、することができません)。

 強制競売の開始決定後、執行裁判所は、執行官に対して、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じます。
 執行官は、調査に際し、その不動産に立ち入ったり、債務者やその不動産を占有する第三者に質問したり、文書の提示を求めたりすることができるほか、閉鎖された戸を開くために必要な処分や、市町村が不動産の固定資産税に関して保有する図面等の資料の交付請求、電気・ガス・水道水等の供給事業者へ必要な事項の報告請求等を行うことができます。
 また、執行裁判所は、評価人を選任し、不動産の評価も命じます。
 評価人は、近傍同種の不動産の取引価格、不動産から生じる収益、不動産の原価その他の不動産の価格形成上の事情を適切に勘案して、遅滞なく評価をしなければなりません。
 執行裁判所は、評価人の評価に基づいて、不動産の売却の額の基準となる価額(売却基準価額)を定めます。
 買い受けの申出の額は、この売却基準価額からその2割に相当する額を控除した価額(買受可能価額)以上でなければなりません。
 裁判所書記官は、①不動産の表示、②不動産に関する権利の取得及び仮処分の執行で、売却によりその効力を失わないもの、③売却により設定されたものとみなされる地上権の概要、を記載した物件明細書を作成しなければならず、その写しは執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供するか、または不特定多数の人がその内容の提供を受けることができるような措置をとらなければなりません。

 ①差押債権者の債権に優先する債権がない場合に、不動産の買受可能価額が執行費用のうちの共益費用であるもの(手続費用)の見込額を超えない時や、②優先債権がある場合に、不動産の買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額を超えない時は、執行をしても剰余を生じる見込がないこととなるため、執行裁判所は、そのことを差押債権者に通知します。
 この場合、差押債権者は、この通知を受けてから1週間以内に、一定の額を定めて、差押債権者自身が買受人になれる場合かどうかに応じて、①申出額に達する買受けの申出がない時は、自分がその申出額で不動産を買い受ける旨の申出と、申出額に相当する保証の提供、または②買受けの申出の額が申出額に達しない時は、自分がその差額を負担する旨の申出と、申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供、のいずれかを行わなければならず、これをしない時は原則として執行裁判所はその強制競売の手続を取り消します。
 これは、無剰余取消と呼ばれます。

 不動産の売却は、入札や競り売りその他の方法で行われます。
 差押債権者の申し立てがある時は、執行裁判所は執行官に対し、買受希望者に対し、不動産に立ち入らせて見学(内覧)をさせます(ただし、差押債権者等に対抗できる権原をもつ占有者が同意しない時は、内覧はできません)。
 買受けの申出は、暴力団員等でない限り可能ですが、申出をしようとする人は、執行裁判所が定める額・方法による保証を提供する必要があります。
 なお、債務者本人も、買受けの申出をすることはできません。
 入札・競り売りの方法による売却が3回実施されても買受けの申出がなかった場合に、不動産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に売却を実施しても売却の見込みがないと認める時は、執行裁判所は手続を停止できます。

 売却決定期日に、執行裁判所が、売却の許可または不許可を言い渡します。
 一定の事由のある場合は、売却が不許可とされることもあります。
 売却許可決定が確定した時は、買受人は、期限内に代金を執行裁判所へ納付し、その時に不動産を取得します。
 その後、登記の移転等がなされます。
 不動産の上に存在する先取特権、使用収益をしない定めのある質権・抵当権、差押債権者等に対抗できない不動産に関する権利の取得、不動産に関する差押え・仮差押えの執行等は、売却によって消滅または効力を失います。
 なお、土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合に、その土地または建物の差押えがあり、その売却によって所有者が異なることとなった時は、その建物については、地上権が設定されたものとみなされます(法定地上権)。
 この場合の地代は、当事者の請求により、裁判所が定めます。
 債務者や対抗権原のない不動産の占有者に対しては、代金を納付した買受人が納付から原則6か月以内に申し立てることにより、執行裁判所が不動産を買受人に引き渡すよう命じることができます(引渡命令)。

 買受人が代金を納付すると、執行裁判所は、債権者が1人である場合や、2人以上でも売却代金で全債権や執行費用を弁済できる場合等を除いて、配当表に基づき、配当を実施します。
 これにより、差押債権者や配当要求の終期までに配当要求をした債権者その他一定の人が、債権の全部または一部の支払を受けることができます。

 以上が不動産執行の概要です。

動産に対する強制執行

 動産(登記のできない土地の定着物、土地から分離する前の天然果実で1か月以内に収穫することが確実なもの、裏書の禁止されている有価証券以外の有価証券を含みます)に対する強制執行(動産執行)は、執行官が目的物を差し押さえることで開始します。
 債務者が占有する動産の差押えは、執行官がその動産を占有して行います。
 執行官は、差押えをするに際して、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所で、または債務者の占有する金庫その他の容器について、目的物を捜索することができ、必要のある時は、閉鎖した戸や禁固その他の容器を開くため、必要な処分をすることもできます。
 差押物を第三者が占有することとなった時は、執行裁判所は、差押債権者の申立て(差押物を第三者が占有していることを知った比から1週間以内に限られます)により、その第三者に対し、差押物を執行官に引き渡すよう命じることができます。

 動産の差押えは、差押債権者の債権と執行費用の弁済に必要な限度に限られ、差押え後にこの限度を超えることが明らかとなった時は、その超える限度で執行官に取り消されます。
 差し押さえるべき動産を売って得られる金(売得金)の額が手続費用の額を超える見込みがない時は、執行官は差押えができず、売得金の額が手続費用の額と差押債権者の債権に優先する債権の額の合計額以上となる見込みがない時も、執行官は差押えを取り消さねばなりません。
 また、差押物について、相当な方法で売却の実施をしてもなお売却の見込みがない時は、執行官は差押えを取り消すことができます。

 差押えはどんな動産に対してもできるわけではなく、差押えの禁止されている動産(差押禁止動産)もあります。
 主な例としては、①債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳・建具、②債務者等の1か月の生活に必要な食料・燃料、③標準的な世帯の2か月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭、④一定の業務を営む・従事する人の、業務に欠くことのできない器具・農産物・水産物等、⑤実印その他の印で、職業や生活に欠くことができないもの、⑥仏像、位牌その他礼拝または祭祀に直接用いるため欠くことができない物、⑦債務者に必要な商業帳簿やそれに類する書類、⑧債務者等の学校その他の教育施設での学習に必要な書類や器具、等が挙げられます。
 なお、執行裁判所は、申立てにより、債務者や債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押えの全部もしくは一部の取消を命じたり、上記の差押禁止動産の差押えを許すこともできます。

 執行官は、差押物を売却するには、入札や競り売りその他一定の方法により行います。
 債務者自身は、動産の買受けの申出をすることはできません。

 債権者が1人の場合や、債権者が2人以上で売得金等で各債権者の債権と執行費用の全部を弁済できる場合は、執行官は債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付します。
 配当をする必要がある時は、債権者間に協議が調えば、執行官はそれに従い配当を実施し、調わない時は、執行官はその事情を執行裁判所に届け出ます。
 この届出があった時は、執行裁判所が配当等の手続を実施します。
 なお、配当等を受けられる債権者は、差押債権者や、執行官が売得金の交付を受けるまでに配当要求をした債権者等です。

 以上が動産執行の概要です。

債権その他の財産権に対する強制執行

差押命令

 金銭の支払または船舶・動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権は除きます)に対する強制執行(債権執行)は、執行裁判所の差押命令によって開始します。
 債権執行は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所(この普通裁判籍がない時は、差し押さえるべき債権の所在地を管轄する地方裁判所)が管轄し、債権者はそちらへ債権執行の申立てを行います。
 なお、差し押さえるべき債権は、その債権の債務者(第三債務者)の普通裁判籍の所在地にあるものとされます。

 執行裁判所は、申立てが妥当であれば、差押命令を発します。
 差押命令には、債務者に対し、債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ第三債務者に対し、債務者への弁済を禁止する旨が記載されます。
 差押命令は、債務者や第三債務者を審尋することなく発せられ、これは債務者や第三債務者に送達されて、差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生じます。
 執行裁判所は、差し押さえるべき債権の全部について差押命令を発することができますが、差し押さえた債権の価額が差押債権者の債権と執行費用の額を超える時は、他の債権を差し押さえることはできません。
 また、差押債権者の申立てがある時は、裁判所書記官は、差押命令を送達する際に、第三債務者に対し、差押命令の送達の日から2週間以内に、差押えをされた債権の存否等一定の事項について陳述するよう、催告をしなければなりません。
 第三債務者は、この催告に対し、故意または過失により陳述をしなかった時や虚偽の陳述をした時は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。

 差押えをされた債権について証書がある時は、債務者は差押債権者に対し、その証書を引き渡さなければなりません。
 給料その他継続的な給付のされる債権に対し、差押えがされた場合の効力は、差押債権者の債権と執行費用の額を限度として、差押えの後に受ける給付にも及びます。
 例えば、1か月分の給料の差押えだけでは金額が充分ではない時は、その後の給料にも差押えの効力が及ぶということです。
 なお、債権者が①夫婦間の協力・扶助義務、②婚姻費用の分担義務、③子の監護に関する義務、④子などの扶養の義務、等に関する確定期限の定めのある定期金債権(定期的に金銭を給付してもらえる債権)を有している場合で、その一部に不履行がある時は、裁判所は、その定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができます。
 これらの債権は、支払がされないと生活に重大な支障を生じかねないものなので、まだ支払期限が来ていない将来の分についても、執行をしうるとするものです。

 債権執行では、どんな債権でも、どれだけでも差押えができるわけではなく、①債務者が国・地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に関する債権、②給料、賃金、俸給、退職年金、賞与、これらの性質を有する給与に関する債権、については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超える時は、政令で定める額に相当する部分)は、差押えができません。
 また、退職手当やその性質を有する給与に関する債権も、その給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえられません。
 逆にいえば、原則は4分の1までは差し押さえられるということです。
 これらは、給与等を差し押さえられた人にも生活があり、全額差し押さえられてしまうと生活ができなくなるためです。
 ただし、債権者が上記の婚姻費用や養育費等の金銭債権を請求する場合は、4分の3ではなく2分の1までが差押禁止債権とされ、差押えのできる範囲が2分の1まで増額されています。
 なお、執行裁判所は、申立てにより、債務者や債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部・一部を取り消したり、上記の差押えが禁止される部分について差押命令を発したりすることもできます。

 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に差押命令が送達された日から1週間(上記の給料債権等の場合は4週間)を経過した時は、その債権を取り立てることができます。
 この場合、支払を受けることができるのは、差押債権者の債権と執行費用の額までです。
 差押債権者が第三債務者から支払を受けた時は、その債権と執行費用は、支払を受けた額の限度で弁済されたものとみなされます。
 差押債権者は、この支払を受けた時は、直ちにそのことを執行裁判所に届け出なければなりません。
 また、差押債権者は、金銭債権を取り立てることができることとなった日や最後に上記の届出をした日から、第三債務者から支払を受けることなく2年を経過した時は、その支払を受けていないことを執行裁判所に届け出なければならず、この2年と4週間以内に届出がされない時は、執行裁判所は差押命令を取り消すこともできます。
 上記の通り、差押えによって、債務者は自分が取り立てることが禁じられるため、差押債権者が取立てを行う必要があり、それゆえ差押債権者は、差し押さえた債権の行使を怠ったことによって債務者に損害が生じた時は、これを賠償する責任が生じます。
 第三債務者が支払をしない等の場合は、差押債権者は、第三債務者に対し、差し押さえた債権の給付を求める訴え(取立訴訟)を提起することもできます。
 第三債務者は、差押えのあった金銭債権の全額に相当する金銭を、供託することができます。

転付命令等

 差押債権者は、第三債務者から支払がされることに代えて、券面額で差し押さえられた金銭債権を差押債権者に転付する命令(転付命令)を発するよう、裁判所に申し立てることもできます。
 これが認められれば、執行裁判所は転付命令を発し、債務者と第三債務者に送達され、確定すれば(上記の給料債権等の場合は、確定し、かつ債務者に対して差押命令が送達された日から4週間が経過すれば)その効力が生じます。
 転付命令が効力を生じた場合、差押債権者の債権と執行費用は、転付命令のされた金銭債権が存在する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたことになります。
 したがって、差押債権者は、転付命令を受けた後で例えば第三債務者がお金がなくて払えないとか、破産をした等の場合でも、その危険は差押債権者が負担することとなり、債務者はもう差押債権者に支払う義務がなくなります。
 差し押さえられた債権が、条件付・期限付である時や、払ってもらうには反対給付をする必要がある等の事由により、その取立てが困難である時は、差押債権者は、①その債権を執行裁判所が定めた価額で支払に代えて差押債権者に譲渡する命令(譲渡命令)、②取立てに代えて、執行裁判所の定める方法によりその債権の売却を執行官に命ずる命令(売却命令)または管理人を選任してその際件の管理を命ずる命令(管理命令)その他相当な方法により換価を命ずる命令を発するよう、裁判所へ申し立てることもできます。

 配当を実施する場合、配当等を受けるべき債権者は、一定の期間までに差押え、仮差押えの執行、配当要求をした債権者です。
 執行力のある債務名義の正本を有する債権者等は、裁判所に配当要求をすることができ、この場合、裁判所はその旨を記載した文書を第三債務者に送達します。
 そして、執行裁判所が配当等を実施します。

 不動産、船舶、動産、債権以外の財産権に対する強制執行は、特別の定めがあるものはそれによるほかは、債権執行の例にならいます。

 なお、上記の婚姻費用や養育費等に関する金銭債権についての強制執行は、既述の方法によるほか、債権者の申立てがある時は、執行裁判所は、間接強制の方法(一定の期間内に履行しない時は直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うよう命じる方法)によって行うこともできます。

 以上が債権執行の概要です。

金銭の支払を目的としない請求権についての強制執行

不動産等の引渡し・明渡しの強制執行

 不動産等(不動産または人の居住する船舶等)の引渡しまたは明渡しの強制執行は、債権者の申立てに基づいて開始します。
 具体的には、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて、債権者にその占有を取得させる方法によって行います。
 執行官は、この不動産等を特定する必要がある時は、その不動産等にいる者に対し、質問をしたり文書の提示を求めたりすることができるほか、債務者の占有する不動産に立ち入ったり、必要がある時は閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることもできます。
 また、執行官は、強制執行の際に、目的物でない動産を取り除いて、債務者や代理人、同居の親族、使用人その他の一定の従業者等に引き渡さなければなりませんが、それができない時は売却することもできます。

 執行官は、債務者がその不動産等を占有している時は、引渡し期限を定めて、不動産の引渡しまたは明渡しの催告をすることができます。
 引渡し期限は、原則として、明渡しの催告があった日から1か月が経過する日とされます。
 執行官は、明渡しの催告をしたこと、引渡し期限、債務者が不動産等の占有を移転することを禁止されていること等を、その不動産等の所在する場所に公示書その他の標識を掲示して公示します。
 明渡しの催告があった時は、債務者は、不動産等の占有を移転してはなりません(債権者に引渡し・明渡しをする場合は除かれます)。
 明渡しの催告後に不動産等の占有の移転があった時は、引渡し期限が経過するまでの間は、その占有者に対して強制執行をすることができます(その占有者は、明渡しの催告があったことを知って占有したものと推定されます)。

動産の引渡しの強制執行

 動産(人の居住する船舶を除く)の引渡しの強制執行は、執行官が債務者からこれを取り上げて、債権者に引き渡す方法により行います。
 第三者が強制執行の目的物を占有していて、その第三者がその物を債務者に引き渡す義務を負っている時は、物の引渡しの強制執行は、執行裁判所が債務者の第三者に対する引渡請求権を差し押さえ、請求権の行使を債権者に許す旨の命令を発する方法で行います。

作為・不作為を目的とする債務の強制執行

 作為を目的とする債務についての強制執行は、執行裁判所が債務者の費用で第三者に当該作為をさせることを命じる方法によって行います。
 不作為を目的とする債務についての強制執行は、執行裁判所が債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、または将来のために適当な処分をするよう命じる方法によって行います。
 これらの場合、執行裁判所は債務者を審尋しなければなりません。
 執行裁判所は、これらの決定をする場合には、債権者の申立てにより、債務者に対し、その決定に掲げる行為をするために必要な費用をあらかじめ債権者に支払うよう命じることができます。

 この作為・不作為を目的とする債務で、上記の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が債務者に対し、遅延の期間に応じて、または相当と認める一定の期間内に履行しない時は直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うよう命じる方法によって行います。
 要するに、一定の期間内に債務の履行をしないと、ペナルティとして一定の金銭を支払ってもらいますよと命じていくものであり、間接強制と呼ばれます。
 この決定をする場合も、執行裁判所は申立ての相手方を審尋しなければなりません。
 この命じられた金銭の支払があった場合でも、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超える時は、債権者は、その超える額については損害賠償請求をすることができます。

子の引渡しの強制執行

 子の引渡しの強制執行は、①執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しをさせる方法か、②上記の間接強制の方法のいずれかによって行います。
 ただし、①は重大な方法であるため、原則としてまずは②によるべきとされ、①の申立ては、間接強制の決定が確定した日から原則2週間を経過した時や、間接強制による強制執行を実施しても債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められない時、子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要がある時でなければ行えません。
 この場合、執行裁判所は、子に急迫した危険がある時その他強制執行の目的を達成できなくなる事情がある時を除き、債務者を審尋しなければなりません。
 執行裁判所は、①の決定では、執行官に対し、債務者による子の監護を解くために必要な行為をするよう命じます。
 執行官は、債務者による子の監護を解くため、債務者に説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入って子を捜索したり、閉鎖した戸を開くため必要な処分をしたり、債権者やその代理人と子・債務者を面会させたり、その場所に債権者・代理人を立ち入らせたりすることができます。
 執行官は、子の心身に及ぼす影響、その場所や周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認める時は、これ以外の場所でも、債務者による子の監護を解くため、その場所の占有者の同意を得るか執行裁判所の許可を受けて、これらの行為をすることができます。
 なお、執行官は、子に対して威力を用いることはできないほか、子以外の者に威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合は、その者に対しても同様です。
 執行裁判所や執行官は、上記①の方法で子の引渡しを実現するに当たっては、子の年齢、発達の程度その他の事情をふまえ、できる限り強制執行が子の心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しなければなりません。

意思表示の擬制

 意思表示をすべきことを債務者に命じる判決その他の裁判が確定し、または和解、認諾、調停、労働審判等で債務名義が成立した時は、原則として、債務者はその確定または成立の時に意思表示をしたものとみなされます。

 以上が金銭の支払を目的としない請求権についての強制執行の概要です。

担保権の実行としての競売等

 担保権の実行としての競売等は、担保権(主に抵当権等)を有している債権者が、担保の目的物を裁判所の手続により売却(換価)してもらい、その代金等で自己の債権を支払ってもらうよう申し立てる手続です。

 不動産を目的とする担保権の実行は、担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行)の方法、または担保不動産収益執行(不動産から生じる収益を、被担保債権の弁済に充てる方法による担保権の実行)の方法のうち、債権者が選択した方法で行われます。
 不動産担保権の実行は、主に①担保権の存在を証明する確定判決や家事事件手続法上の審判、あるいはこれらと同一の効力を有するものの謄本、②担保権の存在を証明する公正証書の謄本、③担保権の登記に関する登記事項証明書、等の文書を裁判所へ提出して、開始されます。
 抵当証券の所持人が不動産担保権の実行の申立てをするには、抵当証券の提出が必要です。

 動産を目的とする担保権の実行としての競売(動産競売)は、主に①債権者が執行官にその動産を提出した場合、②債権者が執行官にその動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書を提出した場合等に開始されます。

 債権その他の財産権を目的とする担保権の実行は、担保権の存在を証する文書が提出された時に開始されます。

 担保権の実行としての競売等については、不動産執行・動産執行・債権執行等の規定の多くが準用されます。

 以上が担保権の実行としての競売等の概要です。

債務者の財産状況の調査手続

財産開示手続

 財産開示手続は、債務者自身に財産を開示させる手続です。

 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者は、裁判所へ債務者の財産開示手続を申し立てることができます。
 ただし、裁判所にこの手続を実施してもらえるのは、①申し立て日から遡って6か月以内に終了した強制執行または担保権の実行による配当等の手続の中で、債権者がその金銭債権の完全な弁済が得られなかった時や、②判明している財産に対して強制執行を実施しても、債権者がその金銭債権の完全な弁済が得られないと疎明した時とされています。
 なお、このような場合でも、債務者がこれらの申し立ての日の前3年以内に、財産開示期日でその財産について陳述をしたことがある時は、①債務者がその財産開示期日に一部の財産を開示しなかった時、②債務者がその開示期日の後に新たに財産を取得した時、③その開示期日の後に債務者と使用者の雇用関係が終了した時を除いて、再度の財産開示手続の実施決定はされません。

 財産開示手続の実施決定が確定した場合、執行裁判所は、財産開示期日を指定して、申立人や債務者を呼び出します。
 財産開示期日には、開示義務者は裁判所へ出頭し、債務者の財産について陳述しなければなりません。
 この陳述の際には、開示義務者は、陳述の対象となる財産について、強制執行や担保権の実行の申し立てをするのに必要となる事項その他申立人に開示する必要がある一定の事項を明示しなければなりません。
 開示義務者が、正当な理由なく出頭せず、または宣誓を拒んだり、正当な理由なく陳述すべき事項について陳述をせず、または虚偽の陳述をしたりした場合、6か月以下の懲役または罰金に処せられます。
 財産開示期日では、執行裁判所は開示義務者に対し、質問をすることができ、申立人も出頭して、執行裁判所の許可を得て質問することができます。
 財産開示期日の手続は、非公開です。

 以上が財産開示手続の概要です。

第三者からの情報取得手続

 こちらは文字通り、第三者から債務者の財産に関する情報を取得する手続です。
 この手続も、財産開示手続と同様、強制執行等の手続をしても完全な弁済が得られなかった等の時に利用できます。

 執行力ある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者等は、登記所から、債務者が所有権の登記名義人となっている土地・建物等に強制執行または担保権の実行の申し立てをするために必要な一定の情報を取得するよう、裁判所に申し立てることができます。
 要するに、債務者の所有している不動産の情報を登記所から取得するよう、裁判所に申し込むことができるということです。

 同様に、夫婦間の扶養義務、婚姻費用分担義等一定の義務に関する請求権や、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権について、執行力のある債務名義の正本を有する債権者は、市町村や日本年金機構・公務員共済組合等から、債務者の給与債権、報酬・賞与債権等に強制執行等をするために必要な一定の情報を取得するよう、裁判所に申し立てることができます。

 また、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者は、銀行や信用金庫、農業共同組合(農協)、社債・株式の振替機関等から、債務者の預貯金債権、振替社債等に強制執行等をするために必要な一定の情報を取得するよう、裁判所に申し立てることができます。

 これが債務者以外の第三者からの情報取得手続の概要です。

 以上が民事執行手続の概要となります。

 民事執行の問題についても、お気軽にご相談ください。