遺言

 遺言は、人が自分の死後の財産を誰に帰属させるか等について、生前に定めておくもので、民法960条以下に規定されています。
 一般的に、相続の際に問題となります。

 遺言は、民法の定める方式に従わなければ、することができません。
 未成年者であっても、15歳以上であれば遺言をすることができますし、成年被後見人、被保佐人、被補助人であっても、遺言をすることはできます。
 ただし、遺言をする時点で、一定の理解・判断能力を備えている必要があります。
 遺言者は、遺言で贈与をすることもでき、これには包括遺贈と特定遺贈があります。
 包括遺贈は、財産内容を指定せずに行う遺贈であり、例えば「全財産をAに遺贈する」とか「遺産のうち、2分の1をBに遺贈する」などとする形式です。
 包括遺贈の場合は、資産も負債もまとめて受遺者へ遺贈されるので、受遺者は相続人と同一の権利義務を有し、遺産分割協議に参加して、具体的に「どの遺産をどれだけ引き継ぐか」を決定する必要が生じます。
 これに対し、特定遺贈は、財産を指定して行う遺贈であり、例えば「〇〇市〇〇町〇丁目〇番地の土地をAに遺贈する」などとする形式です。
 特定遺贈の受遺者が法定相続人ではない場合は、遺産分割協議に参加する必要はありませんし、負債も引き継ぎません。

遺言の方式

 遺言の方式は、普通の方式による遺言と、特別の方式による遺言に分かれます。
 普通の方式による遺言は、原則として、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかによらなければなりません。
 ここでは主に、この3種についてご説明します。

自筆証書遺言

 自筆証書遺言は、遺言者が自筆で作成するものです。
 そのメリットは、本人が自分だけで行えること、費用のかからないこと等であり、デメリットは、作成上の決まりが厳格で、それに反すると無効になり得ること、偽造されたり隠されたりするおそれのあること等です。

 自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自書して、押印をしなければなりませんが、相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書しなくとも構いません。
 ただ、この目録の各ページ(両面の場合は両面共)に署名押印が必要です。
 自筆証書中に文字を書き加える・あるいは減らす・その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を記載して、署名をし、かつ、その変更場所に押印しなければ、その効力を生じません。
 したがって、間違えた場合は一から書き直した方がいい場合もあり得ます。

 なお、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」により、自筆証書遺言の遺言書を、法務局で保管してもらえる制度もあります。
 この制度を用いれば、遺言書の保管申請時に、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合しているかどうかについて、遺言書保管官の外形的なチェックが受けられるので、形式面の不備で遺言が無効になってしまうリスクを減らすことができるでしょう。
 また、遺言書が紛失・亡失するおそれがなくなるほか、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等も防ぐことができますし、家庭裁判所の検認手続が不要になること、一定の場合に一定の者に通知をしてもらえること等のメリットもあります。
 ただし、法務局が、遺言の「内容」について相談にのってくれるわけではなく、また、保管された遺言書が有効であることまで保証してくれるわけではありませんので、その点はご注意ください。

公正証書遺言

 公正証書遺言は、公証役場で、公証人に、公正証書で作成してもらう遺言です。
 つまり、公証人が、「間違いなく、この人が、この日に、この場所で、この内容の遺言書を希望して、作成しましたよ」ということを公的に証明してくれるものです。
 メリットは、偽造されたり隠されたりするおそれが小さいことや、信用性が高いため、後にその効力が争われても、有効と判断されやすいこと等であり、デメリットは、公証役場へ赴く等の手間がかかったり(ただし、代理人に委任することもできますし、公証人に出張してもらうことも可能ではありますが)、書類を揃えたり、費用を負担したりする必要のあることです。

 公正証書遺言は、
  ①2人以上の証人の立会いがあること
  ②遺言者が、遺言の趣旨を、公証人に口頭で伝えること
  ③公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせるか、閲覧させること
  ④遺言者と証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自がこれに署名押印をすること(遺言者が署名できない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができます)
  ⑤公証人が、その証書はこれらの方式に従って作ったものである旨を付記して、署名押印をすること
が要求されます。

 証人や立会人には、①未成年者、②推定相続人(遺言者が死亡したとしたら、相続人になる予定の人)、受遺者(遺言者が死亡した場合に、贈与等を受ける予定の人)、これらの配偶者・直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族等は、なることができません。
 適当な証人がいない場合は、有料にはなりますが、公証役場でも手配してくれます。
 また、公証役場まで行くことが困難であれば、こちらも有料にはなりますが、公証人に来てもらうこともできます(ただし、公証人にも管轄区域があるので、注意が必要です)。

 口のきけない人が、公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人と証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、または自書をして行います。
 遺言者または証人が、耳の聞こえない人である場合は、公証人は、上記の筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者または証人に伝えて、上記の読み聞かせに代えることができ、公証人は、これらの方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければなりません。

秘密証書遺言

 秘密証書遺言は、公正証書遺言と同様に公証役場で作成するものですが、公正証書遺言との違いは、公証人らに対しても、内容を秘密にする点にあります。

 秘密証書遺言は、
  ①遺言者が、その証書に署名押印をすること
  ②遺言者が、その証書に封をして、証書に用いた印章で封印をすること
  ③遺言者が、公証人1人と証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨と、その筆者の氏名・住所を申述すること
  ④公証人が、その証書を提出した日付と遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者と証人と共に、これに署名押印すること
 が必要です。
 秘密証書遺言の場合も、自筆証書の中の、文字を書き加える・減らす・その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して、これに署名し、かつ、その変更の場所に押印しなければ、その効力を生じません。
 ただし、秘密証書遺言は、これらの方式に欠けるものがあったとしても、自筆証書遺言の方式を備えている時は、自筆証書遺言として効力を持ちます。

 成年被後見人も、遺言はできますが、事理を弁識する能力を一時回復した時に、医師2人以上の立会いが必要で、その医師が「遺言者が遺言をする時点で、精神上の障害によって事理を弁識する能力を欠いている状態にはなかった」旨を遺言書に付記・署名押印しなければなりません(秘密証書遺言の場合は、その封紙にその旨を記載し、署名押印します)。

 遺言については、他に特別の方式による遺言、すなわち①死亡の危急に迫った者の遺言、②伝染病隔離者の遺言、③在船者の遺言、④船舶遭難者の遺言等もありますが、あまり一般的ではないため、ここでは割愛します。
 遺言については上記のように幾つか種類がありますが、方式についてミスをしたり、遺言時の遺言者の判断能力について後に争われる危険等を考えると、費用はかかりますが、お勧めは公正証書遺言です。

遺言の効力

 遺言は、遺言者が死亡した時からその効力を生じます。
 ただし、その条件が成就するまでは停止するという条件(停止条件)を付けた遺言の場合は、条件が成就した時から効力を生じます。

 受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄でき、この放棄は遺言者の死亡時に遡って効力を生じます。
 遺贈の履行をする義務を負う人、その他の利害関係人は、受遺者に対して、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈を承認するか放棄するかを決めよと求めることができ、この場合、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しない時は、遺贈を承認したとみなされます。
 遺贈の承認や放棄は撤回できませんが、一定の事由がある場合の取消については可能です。
 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した時は無効です。
 停止条件付きの遺贈は、受遺者がその条件の成就する前に死亡した時も無効となりますが、遺言者がその遺言にそれとは異なる意思を表示した時は、それに従います。

 負担付遺贈を受けた人は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います。
 負担付遺贈では、受遺者が遺贈を放棄した時は、負担の利益を受けるべき人は、自ら受遺者となることができます(遺言者が遺言にそれとは異なる意思を表示した時は、それに従います)。

遺言の執行

検認

 遺言書を保管している人は、相続の開始を知った後は、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出して、内容の確認を請求しなければなりません。
 遺言書を保管している人がいない場合に、相続人が遺言書を発見した後も同様です(公正証書による遺言は除きます)。
 遺言書に封印がされている場合は、家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することはできません。
 この家庭裁判所での手続を、遺言書の検認といいます。
 このように遺言書を提出することを怠り、検認をしないで遺言を執行したり、家庭裁判所外でその開封をしたりした者は、5万円以下の過料に処せられます。

遺言執行者

 遺言者は、遺言で、一人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託できます。
 遺言執行者が就職を承諾した時は、直ちにその任務を行わなければなりません。
 未成年者や破産者は、遺言執行者にはなれません。
 遺言執行者がいない時や、いなくなった時は、利害関係人の請求により、家庭裁判所が遺言執行者を選任できます。

 遺言執行者は、その任務を開始した時は、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。
 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうか確答せよと催告することができ、この場合、遺言執行者がその期間内に相続人に確答をしない時は、就職を承諾したものとみなされます。

 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません。
 また、遺言執行者は、相続人の請求がある時は、その立会いをさせて相続財産の目録を作成し、または公証人に作成させなければなりません。
 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利・義務を有します。
 遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行も、遺言執行者だけが行うことができます。
 遺言執行者は、委任と同様の義務や責任を負い、費用の償還請求権等も有します。
 遺言執行者がいる場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるような行為をすることができず、これに違反してした行為は無効となります(ただし、そのことを知らなかった第三者には対抗できません)。
 なお、相続人の債権者が、その権利を行使することは妨げられません。

 遺言が相続財産のうちの特定の財産に関する場合は、遺言執行者の権利義務等の規定は、その財産についてのみ適用されます。
 遺産の分割方法の指定として、遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言(特定財産承継遺言)があった時は、遺言執行者は、その共同相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます。
 特定財産承継遺言の財産が預貯金債権の場合は、遺言執行者は、その預貯金の払い戻し請求や解約申入れもすることができます(ただし、解約申入れは、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られます)。

 遺言執行者が、その権限内において、遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接に効力を生じます。
 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるほか(ただし、遺言者が別段の意思を表示した時は、その意思に従います)、第三者に任務を負わせることについてやむを得ない事情があるときは、遺言執行者は、相続人に対して、その選任・監督についての責任のみ負います。
 家庭裁判所は、遺言者がその遺言に報酬を定めた場合を除き、相続財産の状況その他の事情によって、遺言執行者の報酬を定めることができます。
 遺言執行者がその任務を怠った時その他正当な事由のある時は、利害関係人は、遺言執行者の解任を家庭裁判所に請求できます。
 遺言執行者自身も、正当な事由がある時は、家庭裁判所の許可を得て、辞任することができます。

 遺言執行に関する費用は、相続財産からの負担となりますが、これによって遺留分を減少させることはできません。

遺言の撤回・取消

 遺言の内容は、一度作ったらもう変えられないわけではなく、遺言者はいつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます。
 また、前の遺言と後の遺言の内容が、矛盾・抵触するようなときは、その抵触する部分については、後の遺言で、前の遺言を撤回したものとみなされます。
 遺言者が遺言をした後、生きている内に、その遺言の内容と異なるような財産の処分や、その他の法律行為をした場合は、これと抵触する遺言についても、撤回をしたものとみなされます。
 遺言者が、故意に遺言書を破棄した時は、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされ、遺言者が、故意に遺贈の目的物を破棄した時も同様です。
 なお、上記の撤回された遺言は、その撤回の行為が撤回され、取り消され、効力を生じなくなった時でも、その効力は回復しません(撤回行為が、錯誤、詐欺、強迫による場合は除きます)。
 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することはできません。
 負担付遺贈を受けた人が、その負担した義務を履行しない時は、相続人は、相当の期間を定めて、その履行をするよう催告することができ、この場合にその期間内に履行がされない時は、相続人は、その負担付遺贈に関する遺言の取消を家庭裁判所に請求することができます。

 以上の通り、遺言は、その人の死後の財産等の処分についての意向であるため、原則として、その遺言者自身の最新の意思が最大限に尊重されます。
 ただし、民法上は、相続人にも希望すれば最低限受け取ることのできる取り分(遺留分)が定められており、この遺留分を侵害する遺言を作成すると、相続開始後に遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行う可能性もあり、その場合は、遺言者の意思がすべて遺言通りに必ず実現するとは限らないこともあります。
 したがって、遺言を作成する際には、場合により、相続人間で紛争が生じないような内容にする等の配慮も必要となり得ます。
 遺言には、個人的な思いを記載することも可能であり、相続人達へのメッセージを合わせて記載する例もみられます。
 これにより、相続人達が故人の思いを理解・納得し、争いにならずに済んだという例もあります。

 遺言の問題についても、お気軽にご相談ください。