支払督促

 支払督促は、少額訴訟と並び、裁判所における簡易な債権回収手続で、民事訴訟法382条以下に規定がされています。
 以下、簡潔にご説明します。

申し立て

 債権者(債権を持っている人)は、金銭その他の代替物または有価証券の、一定の数量の給付を目的とする請求について、簡易裁判所の裁判所書記官に対し、支払督促を申し立てることができます。
 ただし、日本で、公示送達(実際に相手に届けずとも、公示によって送達したものとする手続)によらずに相手へ送達できる場合に限られます。
 申し立て先は、原則として債務者(債権の請求をされる人)の住所地を管轄する簡易裁判所ですが、事務所や営業所のある人に対する請求で、その事務所・営業所での業務に関するものについては、その事務所・営業所の所在地を管轄する簡易裁判所でも可能です。
 また、手形・小切手による、金銭の支払の請求については、手形・小切手の支払地を管轄する簡易裁判所でも可能です。
 債権者は、申立書類に記入捺印して、簡易裁判所の書記官に提出します。
 この段階では、請求の内容を裏付ける証拠資料は特段要求されないので、その意味では訴訟よりも簡易といえるわけです。

発令

 支払督促は、簡易裁判所の書記官が書類の審査のみで行い、実質的な審理はされません。
 支払督促には、請求の趣旨・原因、当事者・法定代理人等のほか、「債務者が、支払督促の送達を受けた日から2週間以内に、督促異議(文字通り、督促に異議のあること)の申し立てをしない時は、債権者の申し立てにより、仮執行(仮の強制執行)を宣言すること」等が記載され、債務者の審尋(言い分を聴くこと)をせずに、発せられます。
 こうして、支払督促が発せられると、それが債務者に送達された時点で、その効力が生じます。

督促異議

 ただし、債務者にとっては、支払督促は、自分の言い分も聴かれずに一方的に発せられてしまうものなので、債務者は、これに対して異議(督促異議)を述べることができます。
 債務者が、仮執行の宣言前に、適法な督促異議の申し立てをした時は、支払督促は、その督促異議の限度で効力を失い、後述の通り通常の訴訟手続に移行していきます。

仮執行の宣言

 債権者は、債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申し立てをしない場合は、次のステップとして、裁判所書記官に対し、仮執行の宣言を申し立てることができます。
 債権者は、仮執行の宣言を申し立てることのできる時から30日以内にその申し立てをしない時は、せっかく行った支払督促もその効力を失ってしまうので、忘れないよう注意が必要です。
 債権者から仮執行宣言の申し立てがされた場合、書記官は、支払督促に手続の費用額を付記して、仮執行の宣言をします。
 この仮執行の宣言は、支払督促に記載され、原則として当事者へ送達されます。
 債務者は、仮執行の宣言を付した支払督促の送達を受けた日から2週間を経過した時は、その支払督促に対して督促異議の申し立てをすることができなくなるので、注意が必要です。
 逆に債務者からみると、1回目の支払督促、2回目の仮執行宣言付支払督促と、簡易裁判所から2回書類が届くので、争いがある場合は放置せず適切に異議を申し立てる必要があります。

仮執行の宣言に対する異議

 仮執行の宣言を付した支払督促に対して、債務者から督促異議の申し立てがない時や、債務者がその申し立てをしたものの却下する決定が出て、それが確定した時は、支払督促は確定判決と同一の効力を有します。
 この場合、債権者はそれに基づいて、債務者の財産に対する強制執行(不動産・動産・給料等の差し押さえ等)が可能となります。
 他方、債務者から適法な督促異議の申し立てがあった時は、債権者が行っていた支払督促の請求については、その目的の価額に従い、支払督促の申し立ての時に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所、またはその所在地を管轄する地方裁判所に、訴えの提起があったものとみなされます。
 要するに、異議が出されて、言い分に争いがあるのであれば、通常の裁判の手続で審理・判決をしましょうということで、通常の裁判の手続に移行するわけです。
 この場合、その後は通常の裁判と同様に、双方が主張立証を行っていき、最終的には和解や判決等で決着する方向へと進みます。

 なお、民法397条以下には、電子情報処理組織を用いて支払督促の申し立てをする場合についても定められています。

 以上の通り、支払督促は、債権者にとっては支払督促と仮執行宣言と少なくとも2回、申し立てはしなければならないものの、申し立て書類も比較的容易で、ご本人でも作成しやすく、債務者から異議を出されて争われない限りは、訴訟のような細かい主張立証を含む実質的な審理は必要とせず、簡易迅速に強制執行へと進められる手続であるといえ、債権回収を図りたい人にとっては検討の余地のある選択肢の一つです。

 支払督促の問題についても、お気軽にご相談ください。