交通事故
交通手段として自動車の普及した現代では、それに伴い交通事故も発生します。
交通事故といっても、トラック、バス、普通車、バイク(自動二輪車)、自転車、歩行者等の間で、交差点、単一道路、駐車場内等の場所で、正面衝突、出会い頭、追突等、色々なパターンの事故があります。
交通事故が起きた場合、これによって損害を受けた被害者や遺族は、加害者に対して、金銭での損害賠償を請求していくことになります。
以下、交通事故事件の概要を記します。
損害
損害の項目としては、おおむね以下のものがあります。
・入院・通院治療費
・入院雑費
・通院交通費
・付き添いが必要になった場合の、付添人の費用
・入通院による休業損害
・入通院慰謝料
・後遺障害逸失利益
・後遺障害慰謝料
・物損
また、被害者が死亡してしまった場合には、以下のものも損害となります。
・死亡逸失利益
・被害者本人や近親者の、固有の慰謝料
・葬儀費用
被害者や遺族の方々は、できることなら事故が起きる前の、後遺症のない状態や生きていた状態に戻してほしいと思うものですが、それは現実には不可能なので、最終的にはお金で賠償してもらう方法での解決となります。
したがって、加害者としては、上記の損害をすべてお金で払わなければならず、総額数千万円、場合によっては1億円を超える時もあります。
これは大変重い責任で、場合によっては一生を棒に振ってしまうので(故意・重大な過失による人身事故の損害賠償義務は、破産手続でも免責されません)、自動車を運転する人は保険の加入が不可欠です。
強制加入の自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)でも被害者への支払はされますが、その最高額は、死亡の場合は3000万円、傷害の場合は120万円、後遺障害の場合は4000万円までに止まり、それを超えた分は加害者の自己負担となります。
また、人損はこの限度で支払われますが、物損については自賠責保険からの支払はなく、全額が加害者の自己負担となります。
したがって、二輪車も含め自動車を運転する人は、任意保険まで加入することが必須です。
なお、被害者は、自動車を運転していた加害者本人や自動車の保有者等のほか、加害者が仕事で自動車を運転していた場合には、基本的に加害者を雇っていた会社等に対しても損害賠償を請求することができます。
損害賠償の金額については、任意保険会社が被害者本人や遺族に最初に提示してくる金額と、弁護士が被害者から受任をして認められる金額(弁護士基準)、更には訴訟をして認められる金額(裁判基準)との間には、それなりの違いが出てくるケースがあります。
以下は、主に裁判基準を記しております。
治療費
治療費は、通常かかった費用の相当額が認められます。
治療費が認められるのは、原則としてけがが治癒するか、あるいは症状が固定するまでの期間の分です。
症状固定とは、それ以上は治療をしても症状が改善しない状態のことで、症状固定の後は更に治療を続けても効果はなく、無駄な支出と評価されるため、その費用は請求が認められないとされています。
入院雑費
入院に伴い生じる諸費用を損害とするもので、入院1日につき、1500円前後が認められます。
交通費
通院の際に実際にかかった電車代やバス代、タクシー代等の費用です。
ただし、常にタクシー代が認められるとは限らず、タクシーを使用する必要性・相当性等が吟味され、電車やバス等で可能であったとみられれば、支払ってもらえない可能性もあります。
自家用車での場合は、移動距離1km当たり15円で認められる例が多いです。
どのような通院手段をとったかについては、領収証をとっておいたりメモを残しておいたりすると良いでしょう。
休業損害
けがや治療等のために仕事ができず、給料をもらえなかった(会社員等)、あるいは収入が途絶えたり減少したりした(自営業等)ことによる損害です。
会社員等の給与所得者は、勤務先から休業証明書等を発行してもらえれば、通常はそれで証明が可能ですが、この場合には残業代等が表れないのが問題点です。
会社役員の場合は、役員報酬額ではなく、そのうち労務の対価に当たる部分の金額を基礎として損害の算定をしますので、役員報酬相当額の全額を加害者に請求できるわけではありません。
自営業者等の事業所得者は、前年の確定申告所得額等を基礎収入として損害の算定をするのが通常です。
例えば専業主婦など家事労働に従事する家事従事者についても、たとえ現実には収入がなかったとしても、法的には家事労働により利益を生み出しているものとみて、けがのために家事に従事することができなかった期間の分については、休業損害が生じているものとされます。
この場合、基礎となる収入額は、賃金センサスによる女性労働者の平均賃金を基にして算定されることが一般的です。
子どもや無職者等については、通常は休業損害は認められませんが、就職間近等の事情がある場合には、考慮され得ます。
入通院慰謝料
入通院で辛い思いをし、精神的苦痛を受けたことによる慰謝料です。
基本的には、入院・通院の期間が長くなればなるほど金額は上がっていきますが、通院の期間が長い割に、実際に病院へ行った日数(通院実日数)は少ないというような場合には、通院実日数✕3.5で計算されることもあります。
また、むち打ちなど他覚所見のみられない症状のみでの通院の場合には、他覚所見の認められる骨折等の場合よりも、金額を低めに算定される傾向があります。
後遺障害逸失利益
通院して治療を受けても残念ながら後遺症(後遺障害)が残り、そのため将来にかけて仕事や家事等を行える能力が落ちてしまった場合に、その部分を損害とみるものです。
後遺症には1級から14級まであり、自賠責保険の「後遺障害等級等級及び労働能力喪失率表」に各等級の具体的な障害例が定められています。
1級は両眼失明や半身不随など重いもので、等級が下がるにつれて軽い(といっても、実生活上は14級でも不便であることは間違いありませんが)ものとなっていきます。
後遺障害逸失利益は、基礎収入✕労働能力喪失率✕喪失期間に対応するライプニッツ係数という計算式で算出します。
基礎収入の金額は、原則として、事故に遭う前の現実の収入額です。
会社役員、事業所得者、家事従事者等の基礎収入の算定については、おおむね休業損害の場合と同様です。
子どもなどの場合は、休業損害の場面とは異なり、後遺障害は将来就職した後も一生問題となり得るものなので、賃金センサスの平均賃金額によって、基礎収入額を算定することが一般的です。
労働能力喪失率は、自賠責保険の後遺障害等級表に各等級の労働能力喪失率も定められており、これが主な基準となります。
労働能力喪失期間は現在、就労可能年齢が18歳から67歳までとされており、その期間は労働能力を喪失するとみるのが原則ですが、軽微な障害の場合は数年分程度しか喪失が認められない場合もあり、更には事故後に収入の減少が生じていないような場合には、労働能力の喪失が認められないケースもあり得ます。
後遺障害慰謝料
後遺障害を負わされたことによる精神的苦痛の慰謝料です。
1級だと3000万円前後、14級だと100万円前後というように、後遺障害の等級により、目安となる金額も変わってきます。
重度の後遺症の場合には、被害者本人の分とは別に、親族にも固有の慰謝料が認められるケースがあります。
物損
事故によって壊れた物の損害です。
事故に遭った自動車・バイク・自転車等のほか、例えば持っていた携帯電話等も壊れたといった場合が考えられます。
物損については、まずは修理代相当額が認められます。
ただし、自動車が修理不能あるいは修理費が時価よりも高額になってしまう場合は、全損として、時価の限度でしか損害と認められません。
例えば、車の時価が50万円しかないのに、修理代が100万円かかるような場合、50万円までしか損害と認められないことになります。
法的には50万円の物を壊したものとみて、そのように扱われます。
事故前の時価については、事前に定期的な査定をしてもらっていて、かつそれが証拠資料として残っていることは通常ないので、車種によっては評価が困難な場合もあり得ます。
なお、適切な修理を行った場合にもなお価格の低下がある場合は、評価損も認められる場合があります。
代車料も、車の修理や買い替え等に必要かつ相当な期間、実際に代車が必要となって使用した場合は、通常は相当額が認められますが、事故車と同種・同年式程度までのものであって、それよりグレードの高い代車の費用は、通常は認められません。
事故に遭ったのが事業用の車両の場合、修理や買い替えの期間中、車を使用して営業できなかった損害(いわゆる休車損害)があれば、認められる可能性もありますが、代車料が認められた場合や、代わりの車で事業ができた場合等には、それで足りるとみられ、こちらは認められません。
また、休車損害の損害額(得られたであろう純利益)については、算定や証明等の問題も生じます。
死亡逸失利益
これは、被害者が死亡したことにより得られなくなった利益、すなわちその後の人生で得られるはずだった収入のことです。
基礎収入✕(1-生活費控除率)✕就労可能年数に対応するライプニッツ係数、という計算式で算出します。
基礎収入の額は、後遺障害逸失利益の場合と同様です。
失業者の場合も、「生きていてもずっと収入は得られなかったであろう」とみるのは気の毒ということで、死亡の場合は原則として基礎収入ありとして算定することが検討されます。
生活費を控除するのは、死亡したことにより、将来の生活費を支出しないことになるのもまた事実であるため、その分は損害額から差し引くのが公平だという考えに基づいており、控除率は0.3~0.5程度とされます。
死亡慰謝料
死亡させられたことによる本人の慰謝料が2000万円~3000万円前後で、それとは別に、親族にも固有の慰謝料が認められるケースがあります。
葬儀費用
150万円前後が認められています。
過失相殺
交通事故の場合には、加害者側から、過失相殺(かしつそうさい)による減額を主張されることがよくあります。
これは、事故について、被害者の側にも何らかの不注意・落ち度があった場合には、事故の損害をすべて加害者に負担させるのではなく、被害者にもある程度分担してもらうのが公平だという考えによるものです。
これは交通事故の多くのケースで適用され、過失割合が100対0で被害者は一切悪くないとされて損害の全額を請求できるケースは、停車中に追突されたとか、相手がセンターラインを超えて衝突してきた等の場合でない限り、現実にはほぼありません。
したがって、例えば被害者も赤信号を無視して交差点へ入ったとか、急に道へ飛び出したとかの場合はもちろん、優先道路を走っている時に、相手の車が横から出てきて衝突されたような場合でさえ、一定の減額がなされることがあります。
このように過失相殺が認められると、被害者の過失の大きさに応じて、請求できる金額から一定の割合が減らされることになります。
例えば、交通事故でこちらに100万円の損害が出た場合でも、20対80でこちらが2割悪いとなれば、80万円しか相手への損害賠償請求は認められず、他方で相手にも100万円の損害が出ていれば、その2割の20万円はこちらが賠償しなければならないという結果になります。
なお、一般に交通事故の場合には、自動車を運転している人の方が、自転車の人や歩行者よりも責任が大きいと評価されるのが通常です。
これは、自動車という危険な物・大きな物を動かしている以上、より弱い立場の人よりも、事故が起きないよう特に気を付けるべきだと考えられているためです。
また、素因減額といって、被害者側の特殊な要因によって、通常の同種の事故の場合よりも通院期間等が長引いてしまっているような場合にも、公平の観点から過失相殺と同様に考えて、損害賠償額が一定割合減額されるケースもあります。
証拠の確保
事故に遭ってしまった後は、必要な治療を受けるのはもちろんですが、可能ならば証拠をしっかりと残していく必要があります。
事故自体の証拠は、ドライブレコーダーの映像や証人、現場の写真や自動車の損傷の様子の写真等が考えられます。
通院については、仕事が忙しいなど色々と事情はあるかと思いますが、必要な限り通院はすべきであり、無理に我慢をして少ししか通院をしないでいると、その程度の軽いけがだと判断される場合もあり得ます。
痛みや日常生活の不便、症状の改善傾向等は、医師に伝えてカルテや診断書等に記録してもらったり、日記をつけたりして記録化しておくこと等が考えられます。
後から「当時はこんなに不便だった」と一生懸命訴えても、それを裏付ける記録がないと、保険会社や裁判所もそれが本当かどうかは分からないためです。
交渉
損害賠償の交渉については、相手が任意保険に加入していれば、その任意保険会社と交渉していくのが通常です。
被害者が任意保険会社との間で必要な任意保険契約をしている場合には、被害者にも過失があれば、被害者側の保険会社が交渉を代行してくれますが、停車中に追突されたような場合など被害者に過失のない場合には、被害者側の保険会社は交渉を代行してくれないため、被害者は自分で相手本人または相手の保険会社と交渉をするか、弁護士に依頼をする必要があります。
事案等にもよるため、絶対とはいえませんが、弁護士が代理人に付いた場合、保険会社の提示する支払金額が上がる可能性があるため(上記のいわゆる弁護士基準)、弁護士に相談ないし依頼をした方が良い場合も多いと思われます。
任意保険の契約に弁護士費用特約が付いていれば、一定限度額までは弁護士費用を自腹で払う必要はありません。
交渉の結果、納得のいく金額が提示されれば、それで合意をして示談成立となります。
訴訟等
相手の言い分や金額に納得がいかず、折り合えなくて交渉が成立しないときは、調停や和解のあっせん(弁護士会の紛争解決センター等による手続)、民事訴訟を提起する等の方法をとることになります。
民事訴訟の場合、双方が主張と証拠を出し合い、裁判所は必要に応じて関係者を尋問するなどし、最終的に和解もしくは判決の形で、被害者からの損害賠償請求が認められるかどうか、認められるとしてその金額はいくらか等について、結論を出すことになります。
示談、和解もしくは判決がなされたら、その後に保険会社から金銭が支払われて解決、となります。
裁判で判決に至る場合の損害賠償金額は、上記のいわゆる裁判基準となります。
以上が交通事故事件の概要です。
交通事故の問題についても、お気軽にご相談ください。