犯罪被害者の支援
犯罪の被害に遭った場合については、主に民事と刑事の問題に分かれます。
民事は、被害についての損害賠償金の支払を求める問題であり、刑事は、犯人の処罰を求める問題です。
ここでは、刑事の問題をご説明します。
刑事手続の流れ
被害届・告訴・告発
犯罪の被害に遭った人は、捜査機関に被害届を出したり、告訴(被害にあったことを申告して、犯人の処罰を求めること)を行ったりすることができます。
被害者の告訴が必要な犯罪(親告罪)として、未成年者略取・誘拐罪、名誉毀損罪、侮辱罪、過失傷害罪、器物損壊罪、一定の親族間の窃盗罪・詐欺罪・恐喝罪・横領罪等があります。
これらは、それぞれ被害者のプライバシー保護、罪質が比較的軽微である、親族同士で解決を図るべきである等の理由により、親告罪とされています。
告訴期間は、原則として犯人を知った日から6か月以内です。
ただし、事件から時間が経てば経つほど、証拠も関係者の記憶も薄れていき、犯人を逮捕してもらうことが難しくなっていくので、被害届にせよ告訴にせよ、警察に申告をするならば早いに越したことがないのは事実です。
なお、被害者ではない人でも、誰でも告発(犯罪の事実があったことを申告して、犯人の処罰を求めること)はできます。
捜査
警察官や検察官は、犯罪の発生したことを知ると、犯人と疑われる人(被疑者)の身柄の拘束(逮捕・勾留)、取り調べ、被害者・目撃者の事情聴取、現場の確認等をして、被疑者が犯人である証拠を集めます。
被疑者には、逮捕後に弁護人が付いて弁護活動が行われることも多く、そのような場合は通常、弁護人が被疑者側の窓口となります。
そして、検察官が証拠を元に、被疑者を裁判所へ起訴(法廷での正式な裁判を求めること)するか、罰金で済ませるか、あるいは起訴しない(不起訴)等の処分を決めます。
不起訴となるのは、どうもこの被疑者は犯人ではなさそう(嫌疑なし)だとか、疑わしさが小さい(嫌疑不十分)だとか、あるいは犯人ではあるが、罪の軽い犯罪で反省や弁償・示談等もしていて、処罰の必要性が小さい(起訴猶予)とか、被疑者が精神の障害によって、物事の是非・善悪を判断できない場合である(このような被疑者は、自分のした犯行の意味を理解できず、処罰をしてもやはり理解ができないので、処罰をする意味がないからだとされます)等です。
公判での審理・判決
被疑者が起訴されると、被告人と呼ばれるようになり、裁判所で審理が行われます。
検察官は、その事件の裁判に出席をして、捜査で集めたり作成したりした証拠の取り調べを裁判所に請求したり、被告人が犯行を争う場合(否認事件)には、被害者や目撃者等の証人尋問を請求したりします。
こうして、検察官は、被告人がその犯罪を行っており有罪がふさわしいこと等を証明していきます(立証)。
被告人にはほぼ全員に弁護人が付き、弁護活動が行われます。
裁判所は、検察官や被告人・弁護人等の主張・立証の内容を検討して、事実はどのようであったのかを認定し、被告人に対して、通常は有罪または無罪の判決を言い渡します。
検察官または被告人・弁護人が、そこで出された判決の内容を不当と考える時は、控訴や上告をして、上級の裁判所に再審理を求めることもあります。
そのようにして最終的に判決が確定すると、検察官は裁判の執行の指揮・監督をします。
犯罪被害者の支援制度
上記が刑事裁判の主な流れですが、この中での被害者への支援制度としては、以下のものがあります。
検察審査会、付審判請求
被害者は、検察官の不起訴処分に不満であれば、検察審査会に審査を求めることができます。
検察審査会は、全国の地方裁判所や主な地方裁判所支部の建物内にあり、選挙権を有する国民の中からくじで選ばれた検察審査員によって構成されます。
審査が申し立てられると、検察庁から事件の記録等を取り寄せて、非公開の会議で審査をします。
審査員だけでは理解しにくい法律上の問題点等について、審査補助員である弁護士の助言を求めることもできます。
審査後に議決をされますが、その内容は、①起訴をすべき(起訴相当)、②更に詳しく捜査をすべき(不起訴不当)③不起訴処分は相当(不起訴相当)、の3つとされています。
起訴相当の場合や不起訴不当の場合には、検察官が事件を再検討して再度処分を決めます。
もし起訴相当の議決に対して検察官が起訴をしない場合には、改めて検察審査会で審査をし、起訴をすべきであるとの議決がされた場合には、起訴の手続がとられます。
また、公務員職権濫用罪等の一定の犯罪の場合には、告訴または告発をした人は、検察官の不起訴処分に不満であれば、その検察官が所属する検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に、事件を裁判所の審判にするよう請求することができます。
この請求は、不起訴の通知を受けた日から7日以内に、不起訴処分をした検察官へ付審判請求書を差し出して行います。
検察官は、請求内容及び事件を再度検討し、その請求に理由があると認める時は、起訴をしなければなりません。
この請求についての審理・裁判は、裁判所の合議体で行われます。
裁判所は、審理の結果、①請求が法令上の方式に違反し、もしくは請求権の消滅後にされ、または請求が理由のない時は、請求を棄却する決定を、②請求が理由のある時は、事件を管轄地方裁判所の審判に付する決定を、行います。
②の決定があった時は、その事件について公訴の提起があつたものとみなされます。
裁判所は、こうして事件がその裁判所の審判に付された時は、その事件について公訴の維持手続を行う者を、弁護士の中から指定しなければなりません。
その弁護士は、事件について公訴を維持するため、裁判の確定に至るまで検察官の職務を行います(ただし、必要なその後の捜査等を全部弁護士がすることはできないため、検察事務官・司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に依頼してこれをしなければならないとされています。)。
事件記録の閲覧・謄写(コピー)
一定の被害者等は、捜査に支障を生じたり関係者のプライバシーを侵害したりしない範囲で、一定の刑事記録を、閲覧したり謄写したりすることができます。
加害者が起訴されて刑事裁判中の場合、被害者や遺族等は、裁判所に対し、刑事記録の閲覧・謄写を申請することができます。
この場合、裁判所が、刑事裁判に関わる検察官、被告人(加害者)、弁護人の意見を聞いて、閲覧謄写をさせることが相当でないと判断する場合を除き、閲覧謄写が認められます。
加害者の刑事裁判が確定した場合は、検察庁で刑事記録の閲覧・謄写を申請することができます。
裁判書以外の記録の閲覧可能期間は、原則として裁判が確定した後3年間となっています。
加害者が不起訴となった場合、有罪とはなっていないため関係者のプライバシー等をより保護する必要も高くなり、刑事記録は非開示が原則ですが、被害者の方を保護する必要もあるため、例外的に実況見分調書等の客観的証拠に限り(場合により供述調書も)、開示を受けられる可能性があります。
被害者参加制度
殺人、傷害、自動車運転過失致死傷等の一定の刑事事件の被害者等は、あらかじめ検察官に申し出て、裁判所の許可を得れば、被害者参加人として刑事裁判に参加することができます。
この場合、公判期日の通知等を受けることができ、加害者の裁判手続に関わっていくことになります。
プライバシーの保護
被疑者が起訴された場合、裁判所は、性犯罪等の被害者の氏名や住所等を公開の法廷では伏せるよう、決定ができます。
この場合には、検察官による起訴状の読み上げ等も、被害者の氏名等を明らかにしない形で行われます。
裁判へ参加する際の負担の軽減等
否認事件等で、被害者の証人尋問が必要な場合には、法廷で被告人と対面するのは、精神的に負担となるため、①家族等の付き添い、②つい立て等による遮へい、③別室でのビデオリンク方式での尋問、等の措置が用意されています。
また、被害者は、裁判を優先的に傍聴できるほか、一定の重大な事件では、希望により、裁判に出席して検察官の隣に座ったり、証人や被告人に質問をしたり、今の気持ちや意見を法廷で述べたりできる場合もあります。
被告人との和解(示談)の支援
被害者等が、被告人との間で、損害等の賠償について裁判外で話し合い、示談がまとまった場合には、刑事事件を審理している裁判所に申し立てて、その内容を公判調書に記載してもらうことができます。
この調書には、民事裁判で裁判上の和解が成立したのと同じ効力が与えられ、仮に被告人がその後、示談内容の通りにお金を払わないような場合でも、被害者等は、わざわざ新たに民事裁判を起こさずに、強制執行の手続をとれるようになります。
更に、殺人、傷害等の一定の重大な犯罪の場合には、刑事事件の係属している裁判所に対し、被告人に損害賠償を命じるよう申し立てることもできます(損害賠償命令制度)。
これも、被害者は、本来ならば刑事裁判とは別に新たに民事の裁判を起こさなければなりませんが、その手間を省き、刑事裁判で表れた結果を利用して、損害賠償の請求を簡潔に実現しようとする制度です。
具体的には、裁判所は、この申し立てを受けると、刑事事件について有罪の判決をした後、引き続きこの損害賠償の審理を担当し、刑事裁判の記録も流用して、原則として数回以内の期日で審理を終わらせ、被告人に損害賠償を命じる等の決定をします。
この決定に対して、当事者から異議の出た場合等は、通常の民事訴訟の手続に移り、そちらで審理が続けられます。
この手続は、刑事裁判の記録を流用できることや手数料が安いこと(ただし、異議が出されると、通常の民事訴訟の手数料が必要となります)等が、メリットといえます。
検察庁・検察官からの支援
全国の地方検察庁には、被害者支援員が配置されており、被害者からの様々な相談への対応、法廷への案内・付添い、事件記録の閲覧、証拠品の返還等の各種手続の手助けや、被害者の精神面、生活面、経済面等の支援を行っている関係機関や団体等を紹介する等の支援活動が行われています。
また、検察庁では、被害者やその親族等から希望があれば、できる限り事件の処分結果、刑事裁判の進行状況・結果、加害者の受刑中の刑務所における処遇状況、刑務所からの出所時期等に関する情報を提供してもらえるよう、被害者等通知制度も設けられています。
弁護士は、被害者等の依頼によって、これらの一連のサポートをします。
以上は、通常の成人の刑事事件の場合です。
少年事件の場合
少年事件の場合も、民事と刑事の問題とに分かれます。
民事の面では、成人の場合と同様、損害賠償請求をしていくこととなります(ただし、少年には通常は収入もなく、親権者に請求をしていくこととなるでしょう)。
刑事(少年審判)の面では、被害者は以下のように手続に関与をしていくことができます。
少年事件の記録について、審判を開始する決定があった事件で、被害者や遺族等の申出がある場合には、正当でない理由による場合や不相当な場合を除き、原則として、少年事件の記録の閲覧・謄写をすることが認められます(ただし、少年の要保護性に関して行われる調査についての記録である、いわゆる社会記録は、少年の個人的な側面・事情等が記載されており除かれます)。
被害者や遺族等は、申出により、その気持ちや意見を審判の際、あるいは審判外で裁判官に述べることができます(審判廷外で家庭裁判所の調査官に述べることも可能です)。
少年審判では原則として傍聴は認められていませんが、例外的に 殺人、傷害等の故意の犯罪行為によって人を死亡させたり傷つけた事件等、一定の少年事件については、被害者や遺族等は、申出を行い、少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認められる場合には、少年審判の傍聴が可能です。
被害者や遺族等が申出を行い、少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認められる場合には、家庭裁判所から審判期日における審判の状況の説明を受けることもできます。
被害者や遺族等が申出を行い、少年の健全な育成を妨げるおそれがない場合には、家庭裁判所から少年の氏名や審判の結果等の通知を受けることもできます。
これらの制度の利用は、家庭裁判所に希望を申し出ます。
少年審判後、被害者や遺族等は、申出により、少年審判で保護処分を受けた加害者(少年)の少年院における処遇状況や保護観察中の処遇状況等について、通知を受けることができます。
具体的には、入院年月日や収容されている少年院の名称・所在地、処遇状況、少年院を出院した年月日、仮退院等を許す旨の決定をした年月日、保護観察が開始された年月日、保護観察が終了する予定の年月日、保護観察中の処遇状況、保護観察が終了した年月日等です。
この制度の利用は、加害者の審判結果が少年院送致の場合は少年鑑別所に、保護観察の場合は保護観察所に希望を申し出ます。
これら少年事件の場合も、被害者等の依頼によって、弁護士が対応をサポートします。
以上が犯罪の被害者のための、主な支援制度となります。
犯罪被害者の支援についても、お気軽にご相談ください。