解雇

 解雇は、労働者が失職という重大な影響を受ける措置です。
 したがって、解雇についても、労働基準法その他の法律や判例によって、色々と規律があります。
 本来、使用者と労働者は、対等な立場であるはずですが、現実には使用者の方が強いことが多く、あくまで当事者の話し合いで自由に決めれば良いとすると、労働者は、事実上過酷な条件を強いられがちです。
 そこで、適正公平を図るものとして、上記の規律がなされています。
 以下、解雇について簡潔に記します。

 解雇は、使用者側から労働者に対し、一方的に労働契約を解除するもので、労働者の生活に重大な影響を及ぼします。
 そのため、当然ながら、使用者は簡単にこれを行えるわけではなく、一般的には、労働者の行為の内容、その他の諸事情に照らして、客観的に見て解雇をするのに合理的な理由があり、社会通念上も相当といえる場合でなければ、解雇権の濫用として、無効となります。
 解雇を行うにあたっては、本当に解雇事由があるのかどうか、本人や関係者等からもよく言い分・事情等を聞いて、事実関係をよく確認してから行う必要があります。
 なお、労働者の国籍・信条・社会的身分等を理由とする解雇、労働者が法律違反の事実を労働基準監督署等に申告したことを理由とする解雇、労働者が労働組合の組合員であることや組合への加入・結成等を理由とした解雇は、いずれも無効とされます。

 使用者は、労働者が業務を行う際にけがをしたり、病気にかかったりして、療養をするために休業する期間と、その後30日間は、原則として、その労働者を解雇できません。
 また、産前産後の女性が法定の休業をする期間と、その後30日間も、原則として解雇はできません。
 ただし、いずれも使用者が法定の打切補償を支払う場合や、天災事変その他やむを得ない事情により事業の継続が不可能になった場合(この場合は、行政官庁による認定が必要です)は、この限りではありません。

 解雇の種類は、①普通解雇、②懲戒解雇、③整理解雇等があります。
 以下、簡単にご説明します。

普通解雇

 普通解雇は、労働者の能力不足、協調性の欠如、就業規則違反、余剰人員の整理の必要性等の理由に基づいて行われる解雇です。
 就業規則違反等を理由とする解雇は、懲戒解雇の対象にもなり得ますが、普通解雇の場合は、懲戒処分としての解雇ではありません。

 普通解雇も、懲戒処分ではないものの、労働者の同意を得ずに、使用者側の一方的な通知によって労働者としての身分を失わせるものなので、労働者保護の観点から、厳しい制約が課されています。
 具体的には、
  ①就業規則に普通解雇となる場合をあらかじめ明示してあること、
  ②正当な解雇理由があり、解雇が相当であること、
  ③原則として30日前に解雇予告をするか、30日分の解雇予告手当を支払うこと、
  ④労働者に普通解雇を通知すること、
等が必要です。

懲戒解雇

 懲戒解雇は、労働者が、重大な服務規律違反や犯罪行為等を行い、企業内の秩序を著しく乱した場合に、懲戒処分として行う解雇です。
 処分の中でも最も重く、労働者の名誉・信用・再就職等にも影響が大きいほか、不当解雇と争われるおそれもあり、その可否は、慎重に判断がされます。
 具体的には、
  ①就業規則に懲戒処分となる行為をあらかじめ明示してあること、
  ②労働者が懲戒処分に当たる行為を行ったこと、
  ③労働者の行為とそれに対する懲戒処分の重さが相当であること、
  ④労働者に懲戒解雇を通知すること、
等が必要です。

 なお、懲戒解雇よりも一段低い処分として、諭旨解雇(諭旨退職)という類型もありますが、これは使用者が労働者に退職を勧告し、退職届を提出させたうえで解雇する懲戒処分です。
 諭旨解雇処分を受けても労働者が退職届を提出しない場合は、懲戒解雇に進むことが予定されます。

整理解雇

 整理解雇は、使用者の経営が苦しくなって、事業所を閉鎖するなど、人員削減の必要性が生じた場合の解雇です。
 整理解雇も、厳しく制限されており、
  ①解雇が必要やむを得ないものかどうか、
  ②使用者が、解雇を避けるための努力を充分に尽くしたかどうか、
  ③解雇される人の選び方が、合理的で公平かどうか、
  ④使用者が、労働者等との間で、説明や協議等、解雇についての納得を得るために、充分な手続をとったかどうか、
等の点をよく検討して、正当性があると評価される場合に限り、認められます。

 なお、使用者が適法に労働者を解雇する場合には、天災事変その他やむを得ない事情で事業の継続が不可能になった場合(行政官庁による認定が必要)や、労働者の帰責事由に基づいて解雇する場合、労働者が日雇いである等の一定の場合を除き、原則として30日前にその予告をしない限り、30日分以上の平均賃金を払わなければなりません。
 あらかじめ就業規則等に明示して、労働者側へ知らせておけば、懲戒解雇の場合に退職金を支給しないことも可能ですが、金額と対象行為のバランス等もあるので、全額不支給とする場合は、慎重な検討が必要です。

 労働者が退職した場合に、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金または退職の事由(退職の事由が解雇の場合は、その理由を含みます)について、労働者が証明書を請求した場合は、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません。
 また、労働者が、解雇予告がされた日から退職日までの間に、その解雇の理由について証明書を請求した場合には、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません(ただし、解雇の予告がされた日以降に、労働者がその解雇以外の事由により退職した場合は、使用者は退職の日以降は、これを交付する必要はありません)。
 これらの証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはなりません。
 使用者は、労働者の死亡や退職の場合に、権利者から請求があった場合には、7日以内に賃金を支払い、積立金・保証金・貯蓄金その他名称のいかんを問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません。
 この金銭について争いがある場合には、使用者は労働者に対し、異議のない部分は上記期間中に支払い・返還しなければなりません。

 トラブルが生じた時は、まずは使用者と労働者とで話し合うことになりますが、労働者は他にも労働組合や労働基準監督署に相談をしたり(都道府県労働局長による助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせん等の制度もあります)、労働審判や訴訟等の法的手続をとったりすること等が考えられます。
 使用者・労働者を問わず、トラブルになりそうな時は、会社の就業規則等の資料のほか、解雇以前や当日のやりとりの経緯についてのメモ等を残しておくと、後々トラブルになってしまった際に、有用な証拠になる可能性があります。

 解雇の問題についても、お気軽にご相談ください。