配置転換・出向・転籍
労働者は、雇用契約の締結後、必ずしも一つの部署や支店のみで勤務をするとは限らず、異動を命じられることがあります。
その態様によって、配置転換や出向、転籍等に区別されます。
以下、簡単にご説明します。
配置転換(配転)
配置転換は、同一の会社内における労働者の配置の変更のことで、職務の内容や勤務地を長期間変更するものです。
このうち、勤務地を変更するものが転勤です。
これらは人事異動の一つであり、使用者には、労働者に多様な経験を積ませることや、人員を再配分して事業の効率を向上させる等の必要性もあるため、これらが直ちに違法になるとはいえません。
そのため、使用者が労働者に対して、一方的に配置転換を命じる配転命令も、使用者と労働者の間で勤務地限定の特約や職務限定の合意がなく、労働契約や労働協約、就業規則等によって根拠が示されていて、かつその範囲内のものである限りは、必ずしも個別の労働者の同意がなくても、原則として有効なものと認められています。
ただし、法令違反となる場合や、以下の要素を検討・総合判断して権利濫用といえる場合も、配転命令は無効となります。
①業務上の必要性がない場合
②業務上の必要性があっても、その命令が他の不当な動機・目的をもってなされた場合
③業務上の必要性があっても、労働者に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合
使用者は、配置転換を命ずるに当たっては、上記の点を考慮する必要があります。
出向(在籍出向)
出向とは、元の勤務先の労働者としての地位を保ったまま、長期間、別の企業の事業所において、その指揮監督のもとで業務に従事することです。
出向命令も、基本的には契約上の根拠があり、その範囲内のものであれば、必ずしも個別の労働者の同意がなくても可能とされています。
ただし、出向は、所属している企業とは別の企業が勤務先になってしまうため、根拠や出向期間、出向中の労働条件等が事前に労働者に明確にされている必要があるほか、出向の必要性も、同一の企業内での異動である配転の場合よりも高度のものが要求されるなど、配転の場合と比べて認められる条件は厳しくなります。
また、配転の場合と同様、法令違反や権利の濫用に当たる場合も、出向命令は無効となります。
労働契約法14条には、使用者が労働者に出向を命ずることができる場合に、その出向命令が、その必要性、対象労働者の選定にかかる事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合、その命令は無効と規定されています。
転籍
転籍とは、労働者に対し、元の勤務先(使用者)との労働契約を終了させて、新たに別の企業との間で労働契約を締結させ、その業務に従事させることです。
この場合は、労働契約の相手が変わってしまうので、労働者の今後の生活に極めて大きな影響を与えます。
そのため、上記の配置転換や出向とは異なり、たとえ労働協約や就業規則に定めがあっても、原則としてその労働者本人の個別の同意が必要であり、使用者が一方的に転籍を命じたり、強要したりすることはできません。
労働者の個別の同意が必要である以上、労働者は転籍を拒否することも可能です。
もし転籍の必要性が生じた場合には、使用者と労働者の間で協議をする必要があるでしょう。
なお、例外的に、会社分割(分割会社の事業に関する権利義務の全部または一部を、承継会社または新設会社に承継させること)に伴って労働者を転籍させる場合は、分割する事業の業務に主として従事する労働者の労働契約は、分割契約書等の定めによって、承継会社等に包括的に承継されるため、労働者の個別的合意は不要とされます。
配置転換・出向・転籍の問題についても、お気軽にご相談ください。