弁護士は、昔より大幅に人数が増え、今では皆様の周囲にも珍しくはなくなってきたはずですが、それでもまだ相談や依頼の際には迷われるかもしれません。
そこで、自戒も込めて、弁護士を選ぶ際のポイントを考えてみます。
1.実力
まずは実力です。
弁護士に依頼をする目的が、自分の権利を確保したり相手に義務を遂行させたりして、紛争・事件を解決することである以上、やはりそれを達成するための実力は最も重要で、実力のある弁護士が良いでしょう。
この実力は、当然ながら弁護士により様々です。
弁護士としての実力は、事実関係の聴取能力、事案の分析能力、法律的知識+社会全般についての広い知識、証拠の収集能力、主張を構成・表現する能力、相手の反論や見通しの予想能力等を指すと考えられ、我々の場合は、実際に闘ってみるなどすればある程度その弁護士の実力は推測できますが(ただし、事件の内容にもよります)、弁護士が実力を磨いているかどうかやその努力の過程・程度等は、通常は表には出て来ないものなので、弁護士の実力を外から判別することは、一般の人にはなかなか困難でしょう。
以下、この実力をどう推し量るべきか、検討してみます。
ア.インターネット検索での上位表示
昨今はインターネットが普及し、検索エンジンは日常的なツールです。
ホームページが上位に表示される弁護士は実力があるのか?といえば、これは実力とはほぼ関係ないでしょう。
広告・宣伝は、主にそのための費用や労力をかければ可能であり、上位に表示されているのは、営業力は高いと思われますが、弁護士としての実力とは必ずしも関係しません。
もしホームページが重要であるとしたら、それは上位表示かどうかよりも、ホームページの中身でしょう。
すなわち、その記事の内容が鋭いかどうか等の方が大切だと思われます(ただ、ここも一般の人にはなかなか分かりにくいかもしれません)。
イ.事務所の規模・立派さ・立地など
一見、大きな事務所や都会でやっている弁護士の方が、実力のありそうなイメージを抱くかもしれません。
確かに、実力があれば繁盛して儲けられ、そのような事務所を構えられる場合もありますが、そこも弁護士の営業上の考えや趣味等もあり、繁盛=弁護士としての実力とは必ずしも一致はしません。
また、大きな事務所でも、複数人で経費を分担すれば一人でやるよりも安く済む場合もあり、必ずしもすごいとも限りません。
弁護士には、職人的な気質の人や、好きなようにやりたくて我が道を行く人、群れたがらない人などもそれなりにいて、実力があっても事務所の拡大や見映え等には興味がなく、無頓着な人も少なからずいます。
よって、都会の、大きい、立派な事務所であることは、営業力があり繁盛してはいるのかもしれませんが、必ずしも弁護士としての実力とは関係しません。
自分の経験上も、必ずしも大きな事務所や都会の弁護士が相手であれば手強かったというわけでもなく、当然ながら、事件の内容やその弁護士によりけりです。
ウ.勝率
スポーツ等のように、勝率を気にする人もいるかも知れません。
しかし、勝率といっても、一つ一つの事件は、野球やサッカー等のように誰もが同じルールの中で同じことを画一的にやるものではなく、事案の内容もそれぞれ違うので、何をもって勝ち・負けとみるかの問題があるほか、勝率は、勝てそうな事件だけを選んでやっていれば上昇します。
また、弁護士には、負けが予想される事件でも戦わねばならない時もあります。
そのような問題もあり、そもそも弁護士は、勝率を広告してはならないことになっています。
よって、勝率というものは参考にはできません。
エ.経験年数、弁護士になった年齢の若さなど
弁護士歴が長いと、通常はそれだけ多くの知識・経験を積みやすく、また経験でカバーできる事もそれなりにあるので、一般的には、成り立ての若手よりも、弁護士経験の長い人の方が、実力が高いとの推定がはたらくことは否定できません。
また、若くして弁護士になったというのも、優秀な能力の一つの表れといえます。
なので、このあたりは考慮の一要素としては良いかもしれません。
ただし、これも絶対ではありません。
というのは、弁護士も他の業種と同様、人間でありロボットではないので、常に地道に努力を続けてこられたかどうかも当然人それぞれです。
人間である以上、ある程度一定の仕事を長く続けていると、マンネリ感が出てきたり、既存の知識や経験だけでも何とかなるとして、新たに勉強することが億劫になり敬遠したりするおそれもあるもので、そういう人は実力が付くことが頭打ちとなります。
また、年を取ると、考え方や発想に柔軟性の失われる場合もあり得ます。
裏を返せば、若い人の方が、経験は少なくとも、フレッシュで情熱やフットワークの軽さ等のある場合も、ないとは限りません。
したがって、ただ弁護士歴が長くても、漫然と過ごせば実力はつきませんし、若くして弁護士になっても、その後の研鑽を怠っていれば同様です。
よって、月並みな話にはなりますが、結局、弁護士になってからもどれだけ一生懸命研鑽・努力を絶えず積んできたかが、とても重要です(が、残念ながら、これは外からは知りにくい事項ではあります)。
このあたりは、結局のところ弁護士に限った話ではなく、どんな職業でも同様かと思われますが。
オ.専門性・有名性
その弁護士が、ある種の事件だけを専門としてこなしていれば、色々な分野をやっている場合よりも実力は付きやすいものです。
その意味では、「その分野を専門にやっている弁護士の方が、実力が付きやすいことが多い」とは言いやすいでしょう。
その分野で有名で、講演などもしているかどうか、も大きなポイントです。
その分野で有名になっているのは、実力があって、皆から認められているからであることが多いためです。
ただし、分野や人などにもより、例えば、単純で定型的に処理できる事件ばかりを大量にやっていて、それを専門とうたっていても、それは「??」となりますし、宣伝を沢山しているから有名というだけの場合もあり得ます。
この専門というのも、どれだけやっていれば専門といえるのか等の問題があり、結局は自称にはなってしまうほか、都会では、他者との差別化を図るためか、専門を掲げている事務所も少なくはありませんが、それでもまだ、純粋に特定の種類の事件しかやらないという事務所は稀で、依頼をされれば、広く扱う事務所が多いとは思います(特定の事件しか依頼が来ないというのは、稀なことでもあります)。
カ.出版、セミナーなど
上記の専門性とも関連しますが、出版やセミナーを行うには、当然、その分野について勉強・研究をしなければなりませんし、通常は、その種の事件もいくらかこなしているはずで(部下にやらせているだけなら、別ですが・・・)、ある程度の実力が推測されます。
また、ホームページ等で、その分野の記事を精力的に発信しているような場合も、同様です。
以上、弁護士の実力を推し測る要素をいくつか検討してみましたが、こうしてみるとお分かりのように、どの要素にも多面性はあり、これなら絶対と言えるような、誰からも分かりやすい「決め手」があるわけではないのが実情です。
個人的には、実力の要素としては、エ~カが中心かなと思われますが、上記のような色々な要素を手がかりに、総合的に検討した上で、最終的にはその弁護士と直接話をしてみて、その話の内容で納得できるかどうか等の点から、その弁護士の実力を推測することになるでしょう。
2.一生懸命さ・親身さ
「実力さえあればいい」という人もいるかも知れませんが、たとえ実力があっても、やる気のない人では問題であり、一生懸命真摯に親身に取り組んでくれる人が良いでしょう(そもそもお金をいただいて仕事をする以上、一生懸命やることは当然であり、やらないとすれば論外とはいえますが・・・)。
これは単に表面的な問題ではなく、一生懸命やる人はたいてい勉強熱心でもあり、それが実力にもつながってきますし、実際に、頑張って事件のことを調べたり考えたりしていると、時に新たな発見をすることもあるためです。
一生懸命・熱心かどうかは、ホームページの記事内容や、実際に会ってみての様子等が判断材料になるかと思います。
かかりつけの医者のように、弁護士と親しくなっていると、より親身に一生懸命にやってもらいやすくなる面もあるかも知れません。
ただし、一生懸命は大事ですが、弁護士まで当事者と常に一体化してしまって、大局が見えないのも困りもので、弁護士は時には一歩引いて事件を見ていないと、客観的に大切な事を見落として突っ走り、依頼者に不利となることもあり得るので、冷静さも必要なのが難しいところでもあります。
バランスが大切です。
3.説明や報告(誠実さ)
相談者・依頼者にとっては、自分が現在、法的にどのような状況に置かれているのかや、今後どうなっていくのかがよく分からないでしょうから、弁護士からの説明や報告が不十分では困ります。
したがって、これらをしっかりとしてくれる弁護士が良いでしょう。
説明や報告は、弁護士自身が内容をよく分かっていないと、うまくはできません。
なお、弁護士も人間であり、イケイケの人、慎重な人、大ざっぱな人、細かい人など、色々なタイプの人が当然います。
説明や報告の際に、「大丈夫」「できる」などと、自信満々に断言するような弁護士もいるでしょう。
そして、そのような弁護士の方が、相談者や依頼者にとっては安心でき、受けは良いのかもしれません。
しかし、確かな根拠があって断言するのなら構わないのですが、そうではない場合は問題もあります。
実際の事件や裁判では、相談者・依頼者の話からは出てこない、意外な事情や相手の言い分・証拠等が潜んでいる場合もあり、それらの出現によって、形勢が逆転してしまうこともないとは限りません。
依頼する側としては、怒り・悲しみ・不安等に駆られている中で、どうしても自分に有利な安心できることばかりを言ってもらいたいと期待しがちなのは無理もないですが、弁護士は職務基本規程上、事件について依頼者に有利な結果となることを請け合い、または保証してはならないとされ、また、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って、事件を受任してはならないとされています。
勝てそうにない事件でも、「大丈夫」「勝てる」「やろう」などと言って依頼をしてもらえれば、弁護士にはお金が入りますが、それでは依頼者にとってマイナスなので、禁止されているわけです。
上記の実力とも関係しますが、私は個人的には、本当に良い弁護士は、事案をよく分析し、色々な事態を想定して油断をせず、細かいようでも時には慎重に場合分け等もして、説明・助言のできる弁護士であると思います。
もちろん、有利な時にはそれを的確に見極めて、依頼者に伝え、安心させるのも大事なことではありますが、不利な場合や、結果が不透明・リスクのある場合等、マイナスの面についてもしっかりと説明をしてくれることも大切です。
見通しの暗い事件を、そうとは知らずに依頼をして敗訴をすれば、結局そこに費やしたお金や時間や労力を損してしまうのは依頼者であり、本人にとって耳の痛いことは、往々にして正しかったり大事なこと(良薬は口に苦し)だったりもします。
もちろん、ただ「できない」というだけではダメで、そのような場合は、なぜできないのかも説明できなければなりません。
誠実さが大切です。
これも、特段弁護士に限ったことではないですが。
こうした説明等をしっかりとしてくれそうかどうかについても、ホームページの記載内容を手がかりとしたり、実際に会ってみて判断したりすることになります。
4.スピード
依頼をしたものの、なかなか取りかかってくれない、対応が遅い、報告はしてくれるが遅い、などというのでは困ります。
その意味では、事件の処理・対応に迅速に取りかかってくれる弁護士が良いでしょう。
しかしながら、弁護士も年中暇というわけでもなく、多忙で手が回らない時があるのも事実で、何でも即すぐに対応せよというのは、難しい場合もあり得ます。
したがって、スピードについては、重視すべき優先順位としては必ずしも高くはなく、許容範囲であれば良いともいえるでしょう。
弁護士の対応が遅い時は、依頼者の側からも時々「あの件どうですか」などと尋ねてみる必要があります。
弁護士が多忙で対応が難しい場合には、弁護士の側からも「今は手が回らないので受けられない」などと示してくれるのではないかとは思います。
なお、このスピードについては、「速い弁護士の方が良い」という意味で、ここに一応記載はしておくものの、対応スピードが速いかどうかというのは事前には全く分からないと思うので、現実的には、弁護士を選ぶ際に重視すべき要素にはなりにくいとは思われます。
5.価格
弁護士の費用は、相談だけならば数千円からですが、実際に依頼をするとなると、交渉なのか調停・訴訟なのか等にもよりますが、数十万円~100万円以上かかってくることも少なからずあり、日用品を買うような場合とは異なるので、価格も気になるところでしょう。
現在、弁護士費用の決め方は原則として自由であり、事務所によって異なります。
そもそも、個々の事件は、その内容や相手の対応、証拠の程度等によっては、その後に必要な時間や労力等(どこまでの手続をとり、いつ、どのように終わるか)が不明確で、必ずしも定型的・画一的とは限らないため、はっきりとした価格を示しにくい場合もあるものですが、なるべく金額の目安を示してくれる事務所が良いでしょう。
一般的には、争いになっている金額の大きな事件や、関係者の人数が多かったり複雑困難・厄介だったりして、手間ひまのかかる事件ほど価格は上がるのが通常です。
利用者にとっては、安いにこした事はないのかも知れませんが、弁護士に依頼する事件というのは、一生にそう何度もあることではないほか、弁護士業務は、誰がやっても同じというよりはオーダーメイドの側面があり、進め方や時間のかけ方や能力等も、その弁護士によりけりなので、安さだけにこだわるのはあまりお勧めはできません。
弁護士にも当然諸経費や労力・時間等の負担が発生しますし、弁護士も人間なので、安い金額で受けたことが業務の進め方・取り組み方にどう影響するかというのは、何とも言い切れません。
後で弁護士を変えざるを得ないようなことになれば、余計に高くつくおそれもあるでしょう。
自信のある事務所は高い傾向もありますが、価格は弁護士が自分で設定できるものである以上、価格と実力との間には必ずしも相関関係があるとも限らず、高ければ常に優れているとも限りません(ただし、価格の分、色々と動いてはくれるかも知れませんし、動いてくれなければ動いてもらうべきでしょう)。
逆に、安い場合は安いなりの理由があるようには思われます。
このあたりも、弁護士に限った話ではないですが。
疑問があれば、よく説明をしてもらうと良いでしょう。
6.事務所の所在地
弁護士に依頼をすると、何度か打ち合わせが必要になることもあるので、自宅や勤務先の近く、あるいはその途中にあるような事務所だと、依頼する側にとっても負担も小さく、便利でしょう。
ただ、打ち合わせ等といっても、そう頻繁にではないですし、今の時代は電話やファックス、Eメール、郵便等の通信手段もあるので、これは他の要素ほど優先順位は高くないかも知れません。
ちなみに、本人が裁判所へ出向く頻度は、民事裁判では、弁護士に依頼をすれば、必ずしも毎回自分で出席する必要はなく弁護士が出席しますし、あるとしたら、和解の話や尋問を行う時ぐらいですが、家事調停等では毎回本人も出席することが一般的です。
ただ、最近は裁判所もウェブでの裁判を取り入れており、弁護士にとっても、遠方の裁判であっても昔よりは対応しやすくなっています。
最後に
ここまで、長くなりましたがいくつかポイントを挙げ、考えてみました。
弁護士探しの方法としては、信用のできる知人や、弁護士会等から紹介してもらう等の方法も考えられますが、その場合でもやはり、最終的にその弁護士の善し悪しを判断するには、上記のような点が主な要素になるものとは思います。
今は、ホームページ等でもある程度、その弁護士の人となりや考え方等をうかがい知れる場合もありますが、それでもなかなか分かるものではなく、最終的にはやはり、実際に相談へ行ってみるしかありません。
その上で、この人でいいと思えば依頼をすれば良いですし、もしちょっと違うと思えば、相談だけでやめておくことも可能です。
ここまで書いてきたのに身も蓋もないかもしれませんが、いつまでもあれこれと弁護士選びに迷っているよりも、エイッと行ってみるしかありません。
案ずるより産むが易しです。
裁判は、多くの人にとっては、一生に一度あるかないかのことでしょうし、一回物を売り買いして終わりでどこで買っても同じというようなものでもなく(その場合なら、単純に一番価格の安い所でも良いでしょう)、通常はしばらくの間、付き合っていかなければならないものです。
手続を進めていく上では、時間や労力、費用等もかかりますし、対立する相手から様々な主張もされて、怒りやショックを受けたり大事な決断を迫られたりなど、色々と大変なこと、辛いこともそれなりに起こり得ます。
弁護士とはそのような中で一緒に手続を進めていくわけです。
したがって、何を重視するかは人それぞれではあるものの、個人的には、実力もさることながら、「信頼できる、そして相性の合う弁護士であること」も同じくらい重要なのではないかと思います。
以上、皆様が良い弁護士と巡り会える一助となれば幸いです。